エマオの晩餐 (ポントルモ)

エマオの晩餐：ヤコポ・ダ・ポントルモによる傑作

1525年、ヤコポ・ダ・ポントルモによって油彩で描かれた『エマオの晩餐』（伊: Cena in Emmaus）は、フィレンツェのウフィツィ美術館に収蔵されている重要な絵画作品です。ポントルモ自身によって署名・日付が記されており、前景に置かれた巻物にその証拠が残されています。この作品は、その写実性、劇的な明暗対比（キアロスクーロ）、そして高い光源からの照明効果によって、後のバロック絵画、特にカラヴァッジョ、ベラスケス、スルバランといった巨匠たちの作品に大きな影響を与えたと評価されています。

制作の経緯と背景

この絵画は、フィレンツェ郊外の修道院の施設のために、修道院長レオナルド・ブオナフェーデからの依頼によって制作されました。修道院の来客を迎え、食事を共にする場を飾る目的で、晩餐の場面が主題として選ばれたのです。制作当時、ポントルモ自身も2年間、疫病から逃れるためこの修道院に身を寄せていたという経緯があります。ウフィツィ美術館や大英博物館などには、この作品のための準備スケッチが数点現存しており、制作過程の一端を垣間見ることができます。また、ヴァザーリの『画家・彫刻家・建築家列伝』においても、この絵画と、ポントルモが同じ修道院に描いたフレスコ画が共に高い評価を受けていることが記されています。

構図と象徴性

『エマオの晩餐』の構図は、アルブレヒト・デューラーの1511年制作の版画『小受難シリーズ』から大きな影響を受けているとされています。特に、キリストのポーズや、大きな三角帽子をかぶった弟子クレオパスの姿は、デューラーの作品と強い類似性を示しています。両作品とも、キリストがパンを祝福する場面を描いており、これはルカによる福音書に記されている、キリストが弟子たちの前から姿を消す直前の出来事です。

絵画の上部には、三角形の目（プロビデンスの目）が描かれています。これは、聖三位一体と復活したキリストの神性を象徴的に示唆していると考えられています。この三角形の目は、エンポリによるポントルモ作品の複製にも見られることから、対抗宗教改革によって禁止された三位一体のシンボルを隠蔽するために意図的に用いられた可能性が指摘されています。さらに、ヴァザーリによれば、背景には当時の修道院の僧侶5人の肖像画が描かれており、その中にはブオナフェーデ自身も含まれています。ブオナフェーデは、キリストと同様に左手を上げ、絵画全体の構成に重要な役割を果たしています。彼は、ウフィツィ美術館にあるロッソ・フィオレンティーノの『スペダリンゴ祭壇画』にも描かれている人物です。

リアリズムと光の効果

絵画の左下には、犬や猫といった動物、金属板、リネンのテーブルクロス、ガラス瓶など、日常生活の細部が写実的に描かれています。このリアリズム表現は、同時代の北方の絵画の影響を強く受けているとされています。また、高い位置からの光源は、キリストの昇天や真実の光を象徴し、絵画全体に神聖な雰囲気を与えています。色のトーンや塗り方は、ポントルモ独特の様式を示しており、彼の高い技量を改めて感じさせてくれます。

参考文献

エリザベッタ・マルケッティレッタ、『ポントルモ、ロッソ・フィオレンティーノ』、スカラ、フィレンツェ1994
AA. VV.、『Galleria degli Uffizi』、collana I Grandi Musei del Mondo、ローマ2003
* Gloria Fossi、『Uffizi』、Giunti、フィレンツェ2004

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