エミール・プラドネル

フランスが生んだ偉大なボクサー、エミール・プラドネルは、1906年 9月2日にこの世に生を受け、1980年 3月15日に73歳でその生涯を閉じました。彼はプロボクサーとしてNBA（全米ボクシング協会）およびIBU（国際ボクシング連合）認定の世界フライ級王者に輝いた実績を持ちます。ボクシングのキャリアをスタートさせる前は、芸術の都パリで彫刻家として成功を収めていたという異色の経歴を持っています。

プロ転向に先立つ1925年、アマチュアの舞台で欧州フライ級タイトルを獲得し、その才能の片鱗を見せました。翌1926年 1月29日、モロッコの地、カサブランカでプロとしての第一歩を踏み出し、デビュー戦を白星で飾ります。プロキャリア初期の6戦はモロッコで戦いましたが、1926年 9月15日の試合以降は主戦場を母国フランスへと移しました。

プロ10戦目となった1926年 11月16日、ドイツ人ボクサー、ルートヴィヒ・ミノウとの一戦では鮮やかなノックアウト勝利を収め、その実力が高く評価されます。当時の新聞でも、プラドネルは将来有望な選手として紹介されるほどでした。快進撃は続き、1927年 1月27日、14戦目にはロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで英国のベテラン、キッド・ソックスと対戦。善戦を見せたものの、ホーム判定により引き分けに終わり、開幕以来続いていた13連勝に終止符が打たれました。

しかし、その勢いは衰えませんでした。1927年 2月11日にはフランスフライ級王座を獲得。このタイトル奪取後、彼は再び驚異的な強さを見せ、11連勝を記録します。その中には5つのノックアウト勝利も含まれていました。順調なキャリアを築いていたプラドネルでしたが、1927年 9月24日、ベルギーでのNicolas Petit-Biquet戦では、再び地元判定による引き分けを経験します。そして同年12月19日、ロンドンで英国フライ級王者ジョニー・ヒルとの王者対決に臨みますが、初めて判定での完敗を喫し、プロ29戦目にして初黒星を味わいました。

1928年 1月4日には欧州フライ級王座を手に入れ、2度の防衛に成功しますが、3月19日、再びロンドンでジョニー・ヒルを相手に防衛戦を行います。しかし、またしても判定で敗れ、王座から陥落しました。

失意を乗り越え、1928年 4月11日にはイタリアフライ級王者ジョバンニ・シリにTKO勝利。同年12月1日にはニューヨーク州認定世界フライ級王者コーポラル・イジー・スチュワーツとの対戦で12回判定勝ちを収めます。しかし、残念ながら規定体重をクリアできなかったため、世界王座獲得はなりませんでした。

キャリアにおける二度の敗戦を喫した宿敵ジョニー・ヒルに対し、プラドネルは故郷フランスでのリベンジの機会を得ます。1929年 2月7日に行われたこの試合で、プラドネルはヒルをノックアウトで下し、見事に欧州フライ級王座を奪還しました。

そして、プラドネルのキャリアの頂点とも言える瞬間が訪れます。1929年 3月2日、NBA世界フライ級王者フランキー・ジェナロとの世界タイトルマッチです。プラドネルはこの強敵をわずか1ラウンドでマットに沈め、NBA世界王座を獲得。同時に欧州のIBUからも世界王者として認定されました。

しかし、世界王座の保持は長くは続きませんでした。1929年 4月18日、ジェナロとの再戦に臨みますが、5ラウンドに反則負けを喫し、NBA世界王座を失います。IBUはプラドネルの世界王座認定を継続しましたが、同年6月20日、Eugene Huatに15回TKO負けを喫し、IBU王座も手放すこととなりました。その後もリングに上がり続け、一進一退の時期を経ますが、1930年半ばから1932年夏にかけては約30戦を戦い、わずか1敗と数回の引き分けに抑え、多くの勝利を重ねました。

1932年 9月19日には、2階級制覇を目指し世界バンタム級王者パナマ・アル・ブラウンに挑みますが、初回KO負け。同年11月14日の再戦でも2回KO負けを喫し、バンタム級の頂点には届きませんでした。

キャリア晩年の1933年 6月5日からは、なんと5試合を日本で行いました。ピストン堀口をはじめとする日本人選手と拳を交え、3勝2引き分けという戦績を残しています。1934年 10月5日にはJoseph Decicoからフランスバンタム級王座を奪取しますが、翌1935年 4月8日には再びDecicoに敗れ、王座を明け渡しました。その後も勝ち負けを繰り返しますが、再び大きなチャンスを掴むことはありませんでした。

プロキャリア最後のリングは1936年 2月20日、ヘンリー・バラスとの一戦でした。この試合に判定勝利を収めた後、エミール・プラドネルは惜しまれつつグローブを置きました。

エミール・プラドネルのプロ戦績は実に134戦。そのうち105勝（39KO）、16敗（3KO）、13引き分けという、非常に数多くの試合を戦い抜いたタフなキャリアでした。彫刻家からボクサーへと転身し、世界王者まで駆け上がった彼の人生は、まさに波乱万丈と言えるでしょう。

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