エリエル・サーリネン

エリエル・サーリネン：アール・ヌーヴォーからアールデコへ、そして教育者として

エリエル・サーリネン (1873年8月20日-1950年7月1日) は、フィンランド南東部生まれの建築家であり、都市計画家です。20世紀の建築史に大きな足跡を残した人物として知られており、その活躍はフィンランドからアメリカへと広がりました。

フィンランドでの活躍：国民的ロマン主義と国際的な評価

サーリネンは、フィンランド大公国ランタサルミで聖職者の家庭に生まれました。幼い頃から科学や語学に秀で、後に美術への関心を深めていきます。タンペレの美学校で水彩画や風景画を学び、ヘルシンキ工科大学で建築を専攻。大学時代には、ヘルマン・ゲゼリウス、アルマス・リンドグレンとの共同事務所を設立し、1900年のパリ万博のフィンランド・パヴィリオンを手掛けました。

このパヴィリオンは、フィンランドの木造建築、イギリスのゴシック・リヴァイヴァル[[建築]]、ドイツのユーゲント・シュティールなど、様々な様式の影響が見られる、多様な要素が融合した作品となりました。サーリネンの初期の建築様式は、19世紀末のフィンランドで隆盛していた国民的ロマン主義の流れを汲むものとして高く評価されています。

国民的ロマン主義の代表作と言えるのが、ヘルシンキ中央駅（1904年設計、1910年-1914年建設）です。このコンペへの入賞は、サーリネンがゲゼリウス、リンドグレンらとの共同活動を終了し、独立して活動する転機となりました。その後も、フィンランド国立博物館（1912年）などの重要な建築物を設計しました。さらに、フィンランドの郵便切手や紙幣のデザインも手がけるなど、多岐にわたる才能を発揮しています。

サーリネンの活躍は建築設計にとどまりませんでした。都市計画の分野でも手腕を発揮し、ハンガリーのブダペストやオーストラリアのキャンベラなどの都市計画に携わっています。特に、エストニアのタリンの再開発都市計画コンペでは1位に入選するなど、国際的な評価を獲得しました。フィンランド国内では、ヘルシンキ中央駅周辺の整備計画や、ヘルシンキ郊外の広大な住宅地開発計画「ムンキニエミ・ハーガ」などを担当しました。

アメリカでの活躍：超高層ビルと教育

1922年、シカゴ・トリビューン社の本社ビル、トリビューン・タワーの設計競技で、サーリネンは惜しくも2位となりました。しかし、彼の設計案は、それまでの箱型高層ビルとは異なる、ゴシック的で上に向かって細くなる斬新なデザインがアメリカ建築界に大きな衝撃を与えました。このデザインは、その後、アメリカ各地の高層ビル建設に大きな影響を与えました。

トリビューン・タワーの設計競技を機に、1923年、サーリネンは家族と共にアメリカに移住。ミシガン州を拠点に設計活動を行う傍ら、教育にも力を注ぎました。ミシガン大学の教授に就任し、1925年には、クランブルック教育コミュニティのキャンパスの設計を依頼されます。

サーリネンはクランブルック美術アカデミーの校長も務め、チャールズ・イームズやレイ・イームズなど、多くの著名なデザイナーや芸術家を育成しました。クランブルックでは、サーリネンの妻も織物や染色の指導を行い、スカンジナビアデザインの伝統をアメリカに伝える役割を果たしました。

サーリネンはミシガン大学でも建築学部の教授を務め、その教育活動は、後の都市計画に大きな影響を与えました。渡米後まもない時期からの貢献を称え、現在でもミシガン大学タウブマン建築・都市計画学部では、客員教授プログラムにサーリネンの名を冠しています。

父子二代にわたる建築家

サーリネンの息子、エーロ・サーリネンも、20世紀半ばのアメリカを代表する建築家となりました。父子による共同作品もあり、サーリネンの建築家としての功績は、息子の代にも受け継がれていきました。

エリエル・サーリネンは、アール・ヌーヴォー様式からアールデコ様式へと移り変わる建築史において、重要な役割を果たした建築家であり、教育者でした。彼のデザインは、現在でも世界中で高く評価されています。

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