エリザベス・シーモア (サマセット公爵夫人)

エリザベス・シーモア（サマセット公爵夫人）

エリザベス・シーモア（旧姓パーシー）は、1667年1月26日にノーサンバランド伯爵ジョスリン・パーシーとその妻エリザベス・リズリー（サウサンプトン伯爵トマス・リズリーの娘）の一人娘として生まれました。しかし、彼女がわずか3歳であった1670年に父ジョスリンが死去したことで、パーシー家の男系は断絶しました。この結果、エリザベスは広大なパーシー家の所領、すなわちイングランド北部の居城アニック・カースルや、ロンドンのサイオン・ハウスおよびノーサンバーランド・ハウス、南部のペットワース・ハウスなどを含む莫大な財産と、それに付随するパーシー男爵位を相続することになります。幼くしてイングランド屈指の資産家となった彼女のもとには、この巨額の遺産を巡って多くの縁談が殺到しました。

1679年、12歳という若さで、ニューカッスル公爵ヘンリー・キャヴェンディッシュの息子であるオグル伯爵ヘンリー・キャヴェンディッシュと結婚します。しかし、結婚からわずか一年後の1680年、オグル伯爵は急逝してしまいました。1681年には、再度トマス・シンと再婚しますが、夫シンは間もなくオランダへ出奔し、駐蘭大使ウィリアム・テンプルに匿われます。この時期、エリザベスに求婚していたスウェーデン貴族カール・ヨハン・フォン・ケーニヒスマルクがシンと対立しており、翌1682年、シンはケーニヒスマルクが差し向けた刺客によって暗殺されるという衝撃的な事件が起こります。この時、エリザベス自身がケーニヒスマルクに夫の殺害を依頼したのではないかという疑惑が持ち上がり、彼女には「殺人者」という拭い難い汚名が一生つきまとうことになりました。

1682年にイングランドへ帰国したエリザベスは、チャールズ・シーモアと3度目の結婚をし、サマセット公爵夫人となりました。この結婚により、彼女が相続したパーシー家の膨大な財産はシーモア家へと引き継がれ、夫チャールズは一躍有力な資産家へと躍進します。彼女はまた、当時のイングランド女王メアリー2世の妹であるアン王女と親密な関係を築きました。1692年にメアリー女王とアン王女が不仲となった際には、夫と共にアン王女を保護し、自身の所有するサイオン・ハウスなどを避難場所として提供しました。マールバラ公爵ジョン・チャーチルとその妻サラ・ジェニングス、そしてシドニー・ゴドルフィンといった有力者たちと共にアン王女を支え続け、1694年にメアリー女王が、次いで1702年にウィリアム3世が死去し、アン王女が女王に即位すると、エリザベスは宮廷の要職である女官に任じられました。

アン女王の治世後半、特に1711年には、女王の最も親密な側近であったマールバラ公爵夫人サラ・チャーチルが失脚すると、エリザベスが彼女に代わって最も重要なポストの一つである衣服係女官に就任しました。サラの従妹にあたるアビゲイル・メイシャムと共に、彼女はアン女王の晩年を支える側近として厚く信頼されることとなります。一方、夫チャールズは閣僚を追放され野党へと転落しましたが、エリザベス自身はアン女王のもとに留まり続けました。

エリザベスの宮廷における影響力を警戒していた人物の一人に、作家で政治評論家でもあったジョナサン・スウィフトがいます。1712年、スウィフトは戯詩『ウィンザーの予言』において、エリザベスをかつての事件に触れて「殺人者」と呼び、さらに赤髪であったことから「にんじん」と侮辱するなど、激しく非難しました。この露骨な攻撃はアン女王の怒りを買い、スウィフト自身の出世の道を閉ざす結果となりました。スウィフトが彼女を非難した背景には、エリザベスがアン女王を操り、政局に影響を与えることを恐れていたという理由があったとされます。しかし実際のエリザベスは温和な性格であり、アン女王との関係は政治的な駆け引きとは無縁の、個人的な厚い信頼に基づいていたとされ、女王が亡くなる直前までその信用を失うことはありませんでした。スウィフトはこうしたエリザベスの実像や女王との関係性を理解しておらず、自身の軽率な行動が失脚を招くことになったと言えます。また、スウィフトがかつて秘書を務めていたウィリアム・テンプルの回想録を巡るトラブルも、彼がエリザベスを非難した一因とされることがあります。その回想録にはエリザベスの親族を否定的に描写した部分があったにも関わらず、スウィフトが出版を強行したことでエリザベスに恨まれたのではないか、そしてスウィフト自身もそれを恐れていたのではないか、という推測がなされています。

1714年にアン女王が亡くなると、エリザベスは衣服係女官を辞任しました。その後、1722年11月24日に55歳で死去しました。パーシー家の所領は、彼女の息子であるアルジャーノン・シーモアを通して相続されました。さらにアルジャーノンの孫娘にあたるエリザベスと結婚したヒュー・スミソンがパーシー家に復姓したことで、ノーサンバランド伯爵家は復活します。ヒューの代で公爵に昇格し、ノーサンバランド公爵家として現在も続いています。

サマセット公爵チャールズとの間に儲けた子女は以下の通りです。

アルジャーノン（1684年 - 1750年） - 第7代サマセット公爵、初代ノーサンバランド伯爵
エリザベス（1685年 - 1734年） - 第8代トモンド伯爵ヘンリー・オブライエンと結婚
キャサリン（1693年 - 1731年） - 第3代準男爵サー・ウィリアム・ウィンダムと結婚
パーシー（1696年6月3日 – 1721年7月4日） - 庶民院議員、生涯未婚
* アン（1709年 - 1722年） - 第3代リーズ公爵ペレグリン・オズボーンと結婚

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