ノーサンバランド伯

ノーサンバランド伯爵の歴史

ノーサンバランド伯爵は、イングランドの伯爵位であり、その歴史は複雑で数々の変遷を経てきました。中世にノーサンバランドを中心とした北部イングランドを領したパーシー家の当主、第3代パーシー男爵ヘンリー・パーシーが1377年にイングランド貴族として叙位されたのが始まりです。しかし、この爵位は何度か剥奪と再授与を繰り返し、パーシー家の世襲が途絶えた後、チャールズ2世の私生児ジョージ・フィッツロイに授与されましたが、彼もまた子孫を残すことなく亡くなり、爵位は廃絶しました。

その後、パーシー家の女系子孫にあたる第7代サマセット公爵アルジャーノン・シーモアが1749年にグレートブリテン貴族として叙位され、彼の死後は娘婿である第4代準男爵ヒュー・スミソンが継承し、パーシー姓を名乗りました。さらに1766年にはノーサンバランド公爵に叙せられ、以降、現在に至るまで彼の家系がノーサンバランド公爵位の従属爵位として継承を続けています。

パーシー家による創設と変遷（1377年-1670年）

パーシー家は、家祖のウィリアム・ド・パーシー以来、ノーサンバランドやヨークシャーに広大な荘園を所有し、イングランド北東部の有力な領主でした。ヘンリー・ド・パーシーの代に1299年2月6日、パーシー男爵としてイングランド貴族に列し、1309年にはアニック城を購入し、以降、この城はパーシー家所有の城の中でも最も有名となりました。

第4代パーシー男爵ヘンリー・パーシーが1377年7月16日にノーサンバランド伯爵に叙位されたのが、ノーサンバランド伯爵パーシー家の始まりです。しかし、リチャード2世はパーシー家の勢力を警戒し、ネヴィル家やクリフォード家との勢力均衡を図ったため、パーシー家はリチャード2世と対立を深め、1399年のヘンリー4世による王位簒奪を支持しました。

その後、パーシー家はヘンリー4世とも対立し、3度にわたって反乱を起こしました。最初の反乱である1403年のシュルーズベリーの戦いでは、初代伯の息子で「ホットスパー」として知られるヘンリー・パーシーが戦死し、初代伯の弟である初代ウスター伯トマス・パーシーも処刑されました。1405年の反乱失敗後、初代伯は亡命し、1406年に爵位を剥奪されました。1408年に帰国するも戦死し、パーシー家は一時的に勢力を弱めました。

「ホットスパー」の息子ヘンリー・パーシーは、1416年に領地と称号を回復しましたが、祖父の私権剥奪が正式に取り消された証拠がないため、初代ノーサンバランド伯として新たに叙爵されたと見なされることもあります。彼はヘンリー5世に従い、百年戦争で活躍し、ヘンリー5世の遺言執行人を務めました。薔薇戦争ではランカスター派として戦い、1455年に戦死しました。

その息子の3代伯ヘンリー・パーシーもランカスター派として戦い、1460年と1461年の戦いでヨーク派を破りましたが、1461年のタウトンの戦いで敗死し、死後、ヨーク派のエドワード4世によって領地と爵位を剥奪されました。その後、ネヴィル家の一族が代わりにノーサンバランド伯に叙位されました。

3代伯の息子ヘンリー・パーシーは、最初は投獄されましたが、エドワード4世とネヴィル家の不和によって赦免され、1470年に爵位と領地を取り戻しました。以降、エドワード4世に従い、フランス遠征やスコットランド遠征に従軍しましたが、1489年に新税の徴税に反対する暴徒によって殺害されました。

その息子の5代伯ヘンリー・アルジャーノン・パーシーは、ぜいたくな生活を送りましたが、久しぶりにベッドの上で死んだ当主となりました。その息子の6代伯ヘンリー・パーシーは、少年時代にトマス・ウルジー枢機卿の宮殿で暮らし、アン・ブーリンと恋人になりましたが、ウルジー枢機卿に叱責され、恋を断念しました。宗教改革に対する反発で発生した恩寵の巡礼には参加しませんでしたが、弟2人が参加し、1人が処刑されました。6代伯は子供がなかったため、1537年の死後、ノーサンバランド伯は一旦廃絶しました。

6代伯の甥トマス・パーシーは、カトリックであったことからメアリー1世の寵遇を受け、1557年にパーシー男爵とノーサンバランド伯に叙位されました。しかし、エリザベス1世のプロテスタント政策に反対し、1569年に北部諸侯の乱を起こして失敗し、1572年に処刑されました。7代伯には男子がなく、弟のヘンリー・パーシーが8代伯となりました。ヘンリーは兄の反乱には参加しませんでしたが、1585年に自殺しました。

その息子の9代伯ヘンリー・パーシーは、火薬陰謀事件に関与した疑いで投獄されましたが、釈放後は引退しました。10代伯アルジャーノン・パーシーは、清教徒革命前夜にチャールズ1世に重用されましたが、議会派に味方し、王政復古後に枢密院に復帰しました。その息子の11代伯ジョスリンは、若くして亡くなったため、パーシー家によるノーサンバランド伯は1670年に廃絶しました。

フィッツロイ家による継承（1674年-1716年）

1674年、チャールズ2世の私生児であるジョージ・フィッツロイがノーサンバランド伯に叙位されました。1683年にはノーサンバランド公にも叙せられましたが、1716年に子供なく死去し、フィッツロイ家によるノーサンバランド伯位は一代で消滅しました。

シーモア・パーシー家による継承（1749年以降）

11代ノーサンバランド伯ジョスリン・パーシーには男子がいませんでしたが、娘エリザベス・パーシーがノーサンバランド伯爵家の財産を相続しました。彼女は第6代サマセット公チャールズ・シーモアと結婚し、2人の息子アルジャーノン・シーモアが第7代サマセット公爵位を継承しましたが、男子がいなかったため、1749年、娘エリザベスの夫であるヒュー・スミソンが特別継承者としてノーサンバランド伯爵に叙位されました。スミソンはパーシーに改姓し、1766年にはノーサンバランド公爵に叙せられました。

以降、ノーサンバランド伯爵位はノーサンバランド公爵位の従属爵位として現在まで続いています。

歴代ノーサンバランド伯一覧

歴代のノーサンバランド伯爵は以下の通りです。

ノーサンバランド伯（パーシー家 1377年）
初代ノーサンバランド伯ヘンリー・パーシー（1341年 - 1408年）

ノーサンバランド伯（パーシー家 1416年再創設）
2代ノーサンバランド伯ヘンリー・パーシー（1394年 - 1455年）
3代ノーサンバランド伯ヘンリー・パーシー（1421年 - 1461年）

ノーサンバランド伯（ネヴィル家 1464年創設）
ノーサンバランド伯ジョン・ネヴィル（1431–1471）

ノーサンバランド伯（パーシー家 1470年再創設）
4代ノーサンバランド伯ヘンリー・パーシー（1449年 - 1489年）
5代ノーサンバランド伯ヘンリー・アルジャーノン・パーシー（1478年 - 1527年）
6代ノーサンバランド伯ヘンリー・パーシー（1502年 - 1537年）

ノーサンバランド伯（パーシー家 1557年再創設）
7代ノーサンバランド伯トマス・パーシー（1528年 - 1572年）

ノーサンバランド伯（パーシー家 1572年再創設）
8代ノーサンバランド伯ヘンリー・パーシー（1532年 - 1585年）
9代ノーサンバランド伯ヘンリー・パーシー（1564年 - 1632年）
10代ノーサンバランド伯アルジャーノン・パーシー（1602年 - 1668年）
11代ノーサンバランド伯ジョスリン・パーシー（1644年 - 1670年）

ノーサンバランド伯（フィッツロイ家 1674年創設）
初代ノーサンバランド伯ジョージ・フィッツロイ（1665年 - 1716年）

ノーサンバランド伯（シーモア・パーシー家 1749年創設）
初代ノーサンバランド伯アルジャーノン・シーモア（1684年 - 1750年）
2代ノーサンバランド伯ヒュー・パーシー（1714年 - 1786年）

以降はノーサンバーランド公爵第3期を参照。

参考文献

青山吉信 編『イギリス史〈1〉先史~中世』山川出版社、1991年。
海保眞夫『イギリスの大貴族』平凡社、1999年。
松村赳、富田虎男『英米史辞典』研究社、2000年。
森護『英国の貴族 遅れてきた公爵』大修館書店、1987年。

関連項目

ノーサンブリアの君主一覧
ノーサンバランド公爵
パーシー男爵

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