エリダヌス座シータ星

エリダヌス座θ星（エリダヌスざシータせい、θ Eridani）は、この星座において3等星に分類される恒星です。

概要

エリダヌス座θ星は、歴史的にはエリダヌス座が象徴する「川」の最南端を飾る星として知られていました。特に、古代ギリシャやローマの天文学者たち、例えばヒッパルコスやプトレマイオスは、この星がギリシャ本土の北緯33度以南の地域から見えないほど南に位置していたことから、天の川の終点、すなわち「川の果て」を象徴する星として星表に記載しています。この歴史的な位置づけは、後に名称の由来にも深く関わることになります。

エリダヌス座θ星は、単一の星ではなく、実際にはθ¹星（θ¹ Eri）とθ²星（θ² Eri）という少なくとも二つの恒星から構成される連星、あるいは二重星として観測されています。地球から観測すると、これら二つの星は約8.3秒角という比較的近い角距離で並んで見えます。詳細な観測データ、特にこれらの星の運動におけるわずかな「ふらつき」からは、θ¹星とθ²星が互いの重力によって結びついた連星系を形成している可能性が高いことが示唆されています。

名称

この星の固有名として広く知られている「アカマル（Acamar）」という名称は、アラビア語に由来しています。具体的には、「川の果て」を意味するアラビア語の表現 ākhir al-nahr がその語源です。興味深いことに、エリダヌス座の現在のα星である「アケルナル（Achernar）」も全く同じ ākhir al-nahr を語源としており、これは両星の歴史的な関係性を示唆しています。

アカマルが位置するエリダヌス座θ星は、中世の天文学においてはエリダヌス座の最も南に位置する星、つまり「川の果て」そのものと見なされていました。しかし、大航海時代を経て南天の観測がさらに進み、ルネサンス期以降にエリダヌス座の領域が現在の境界線まで南に拡張された結果、より南方に位置するα星が新たな「川の果て」として定義されることになりました。このため、本来「川の果て」であったθ星はアカマルと呼ばれ続け、新たな「川の果て」となったα星は、同じ語源から派生した「アケルナル」という名で呼ばれるようになったのです。

「川の果て」を意味する ākhir al-nahr という名称自体も、元をたどればプトレマイオスなどのギリシャ・ヘレニズム系の天文学知識がアラブ世界に伝わった際に、ギリシャ語の概念がアラビア語に翻訳された結果定着したものであると考えられています。一方、アラブ世界に古くから伝わる伝統的な星名においては、この星は全く異なる名称で呼ばれていました。10世紀の著名なアラブの天文学者アブドゥッラフマーン・スーフィーが著した重要な天文誌『星座の書』（Kitāb Ṣuwar al-Kawākib al-Thābita）の中では、エリダヌス座θ星は「ダチョウ」を意味するアラビア語の ظلیم (ẓalīm) と記録されています。これは、アラブ固有の星座体系や星の捉え方が存在したことを示す貴重な例です。

現代の天文学において、恒星の固有名は国際天文学連合（IAU）によって公式に管理されています。2016年7月20日、IAUの恒星の命名に関する作業部会（Working Group on Star Names, WGSN）は、この星系の主星であるエリダヌス座θ¹星に対して「Acamar」という名称を固有名として正式に承認しました。これにより、「アカマル」はエリダヌス座θ¹星を指す国際的な公式名称となりました。

また、中国の伝統的な天文学においては、エリダヌス座θ星は「天園六（てんえんろく）」として知られています。これは、中国の星座体系（二十八宿や三垣など）における『天園』と呼ばれる星官（特定の星の集まり、アステリズム）を構成する星の一つであり、その中で6番目に数えられていることを示しています。

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