エルフェゴ・バカ

エルフェゴ・バカ：伝説の法執行官、法律家、政治家

エルフェゴ・バカ（Elfego Baca, 1865年2月10日 – 1945年8月27日）は、アメリカ西部開拓時代の末期にその名を轟かせた、伝説的な法執行官、法律家、そして政治家です。彼の生涯は、数々の武勇伝と、法と正義を追求する情熱に彩られています。

生い立ちと青年期

1865年2月、南北戦争終結直前のニューメキシコ州ソコロで生まれたバカは、その誕生からしてドラマチックでした。母が妊娠に気づかぬまま、球技中に生まれたという逸話は、彼の波乱に満ちた人生を予感させます。

翌年、家族はカンザス州トピカへと移住しました。これは子供たちに良い教育を受けさせるためでしたが、経済的な理由も影響したと考えられています。当時トピカは、アッチソン・トピカ・アンド・サンタフェ鉄道の拠点として活気に満ちていました。しかし、1872年には母と兄姉が相次いで亡くなり、1880年にバカはソコロに戻りました。その後、父も戻りベレンの町の執行官となります。

1884年、19歳になったバカはソコロ郡で保安官補に就任。彼の目標は保安官になることであり、そのためには「無法者が自分の足音を聞いて逃げ出す」ような存在になることを望んでいました。当時のニューメキシコ南西部はまだ未開の地が多く、カウボーイたちが横行していました。彼らは町で酒を飲んで騒ぎ、メキシコ系住民を攻撃し、銃を乱射するなどやりたい放題でした。バカは、このような無法状態を終わらせることを決意します。

フリスコ銃撃戦

1884年12月1日、アッパー・サンフランシスコ・プラザ（現在のリザーヴ）で、バカは騒ぎを起こしたカウボーイを逮捕します。カウボーイの仲間たちは彼の釈放を要求しましたが、バカは拒否。脅迫を受けたバカは、ジェロニモ・アルミホの家に避難します。約80人のカウボーイたちが家を包囲し攻撃を始め、この攻防は「フリスコ銃撃戦」として語り継がれることになります。

カウボーイたちはアドベ造りの家に向けて4,000発以上の銃弾を撃ち込みましたが、バカは奇跡的に一発も被弾しませんでした。地面より低い床が、彼を守ったと言われています。この包囲戦で、バカは4人の攻撃者を射殺、8人に負傷を負わせました。36時間後、カウボーイたちが弾薬を使い果たして撤退した時、バカは無傷で家から出てきました。

この銃撃戦で命を落としたカウボーイの一件で、バカは殺人罪で起訴されます。裁判では、400以上の弾痕が残るアルミホの家のドアが証拠として提出され、バカは無罪となります。この事件は、バカの不屈の精神と驚異的な運を象徴するものとして語り継がれています。

法律家としての活躍

正式にソコロ郡の保安官になったバカは、地域内の犯罪者逮捕に奔走します。彼は、容疑者の逮捕状を持つと、部下に追跡を命じるのではなく、容疑者本人に手紙を送りました。「逮捕状を持っている。3月15日までに出頭せよ。さもなければ逮捕に抵抗するものとみなし、やむを得ず発砲する」という内容でした。多くの犯罪者が、この手紙を受け取り自首しました。

1888年には連邦保安官となり、2年間務めた後、法律の勉強を始めます。1894年には弁護士資格を取得し、ソコロの法律事務所に加わりました。1902年から1904年には、エルパソで事務所を開業しました。弁護士としてバカは、その才能を発揮し、多くの被告人を救ったと伝えられています。

政治家としての顔

バカは、ソコロ郡の郡書記、市長、教育長、ソコロとシエラ郡の地方検事など、数々の公職を歴任しました。多くの人が、彼をソコロ史上最高の保安官と評価しています。1913年から1916年までは、メキシコ革命中に、ビクトリアーノ・ウエルタ政府のアメリカ合衆国公式代表を務めました。この立場が、後には陰謀罪での起訴に繋がりますが、弁護士オクタビアノ・ララゾロの尽力により無罪となります。

1912年にニューメキシコが州になった際には、共和党から議員に立候補しましたが落選しました。しかし、ヒスパニック系住民の票を動員できる人物として、政界でその名を知られるようになります。また、一時期は私立探偵として働いたり、国境を越えたカジノで用心棒を務めたこともありました。

長年、上院議員ブロンソン・カッティングの政治調査員として活動し、カッティングの業績を称賛するコラムをスペイン語で執筆しました。晩年は健康を害しながらも知事への立候補を検討しましたが、1944年に地方検事の指名を得るのに失敗します。彼の伝記を書いたメッツは、「エルフェゴは議論の的だった。彼は酒を飲み過ぎ、よく喋り、女性を好み、横柄で、人を殺すことに良心の呵責を感じなかった」と述べています。

75歳の誕生日には、アルバカーキ・トリビューン紙に「弁護した30人の殺人被告のうち、刑務所に行ったのはたった一人だ」と語りました。1936年には、ジャネット・スミスがバカにインタビューを行っています。そこでバカは、「誰も殺したくはないが、もし誰かが自分を殺そうとしたら、最初に捕まえて仕事を片付けるだろう」と語りました。

1945年、エルフェゴ・バカは80歳でこの世を去りました。1958年には、ディズニーが彼の生涯を基にしたテレビ番組『The Nine Lives of Elfego Baca』を放送し、その伝説は広く知られることとなりました。現在もソコロでは、彼にちなんだゴルフ競技が毎年開催されています。

エルフェゴ・バカの生涯は、西部開拓時代のフロンティア精神と、不屈の精神を体現しています。彼は、正義と法を重んじ、自らの信念を貫いた、真の英雄として語り継がれることでしょう。

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