エロイーズ・カニングハム

エロイーズ・カニングハム：日本の青少年音楽教育に捧げた生涯

エロイーズ・カニングハム（1899年9月4日 - 2000年11月27日）は、アメリカ出身の音楽家であり教育者です。彼女は「青少年音楽協会」の創立者として知られ、日本の青少年に向けて西洋音楽の普及に生涯を捧げました。戦前からプロのオーケストラによる生演奏を子どもたちに無償で届ける演奏会を主催し、日本における音楽鑑賞教育の草分け的存在となりました。1987年には、その功績が認められ勲四等瑞宝章を受章しています。

生い立ちと教育

1899年、エロイーズ・カニングハムはアメリカ合衆国ペンシルベニア州で、宣教師であるウィリアム・カニングハムと学校教師であったエミリーの長女として生まれました。2歳の時に両親とともに来日し、父ウィリアムは東京・四谷で伝道局「四谷ミッション」を組織、「東京若葉キリスト教会」を開設して独立宣教師として布教活動を行いました。また、学習院の英語教師としても教育活動に従事しました。

エロイーズは少女時代を日本で過ごし、1917年に高等教育を受けるためアメリカへ渡りました。高校卒業後、オハイオ州のオベリン大学とオベリン音楽院でピアノを学び、学士号を取得。その後、ニューヨークのコロンビア大学大学院で音楽学を専攻し、修士号を取得しました。

日本での音楽教育活動

1927年に日本へ帰国後、エロイーズは東京女子大学や東洋英和女学校で英語教師として、またアメリカン・スクールで音楽教師として教鞭を執りました。その中で、多くの子どもたちが本物のオーケストラの演奏に触れたことがない現状を知り、オーケストラの生演奏を子どもたちに届けるコンサートの実現を目指すようになりました。

1939年、「青少年交響楽鑑賞会」を設立。ニューヨーク・ナショナル・シティバンクの日本支店長ジョン・カーティスが資金援助を行ったほか、立教学院のポール・ラッシュや恵泉女学園の河井道子らが賛同者として名を連ねました。さらに、英・米・独・伊・ポーランド各国大使も賛助会員に加わるなど、国際色豊かな支援体制が築かれました。同年6月17日、日比谷公会堂で第一回コンサート「若き人々のための交響楽演奏会」が開催され、齋藤秀雄指揮、新交響楽団（現・NHK交響楽団）の演奏により、大きな成功を収めました。その後、アジア・太平洋戦争開戦前までに、新交響楽団は齋藤秀雄とヨーゼフ・ローゼンシュトックの指揮のもと、計7回の演奏協力を行いました。

エロイーズは演奏会に先立ち渡米し、若者のためのコンサートについて見聞を広めたとされていますが、詳細は明らかにされていません。また、戦時下と終戦直後の彼女の消息も不明な点が多く残されています。しかし、1941年10月には米国へ一時帰国し、アメリカ陸軍情報部のスペシャル・ブランチ（G2）に配属、1947年夏にはGHQ参謀第2部に所属して再来日したとされています。

戦後の活動と晩年

1948年9月、コンサートが再開されました。日本放送協会の支援により公開放送も行われるようになり、その活動は全国へと広がりました。1950年代には、東京横浜地域の中学校および高等学校の会員校229校（1953年時点）の生徒を日比谷公会堂へ無償で招待しました。東京交響楽団（上田仁指揮）を中心に、アメリカ陸軍、空軍軍楽隊も演奏に協力しました。エロイーズは、演奏会の企画からプログラム構成、演奏者の調達、曲目解説の執筆まで、そのほとんどを一人で担いました。

1950年代後半以降は、日本フィルハーモニー交響楽団（渡辺暁雄指揮）や東京フィルハーモニー交響楽団（大町陽一郎指揮）、東京藝術大学と武蔵野音楽大学の学生による「MFY青少年交響楽団」（石丸寛、山本直純指揮）、桐朋学園オーケストラ（斎藤秀雄指揮）、NHK交響楽団（岩城宏之指揮）など、数多くの楽団が演奏に協力しました。1962年6月には、来日したエドゥアルト・シュトラウス2世が東京交響楽団を指揮し、このコンサートに参加しました。また、演奏会事業の傍ら、米国の音楽雑誌『ミュージカル・アメリカ誌』の特派員として、日本の音楽事情や伝統文化を紹介する記事を寄稿していました。

1960年代後半以降、青少年音楽協会の活動は縮小傾向をたどりましたが、エロイーズは事業を継続し、盲人音楽家を支援する取り組みなども行いました。1987年秋、長年にわたる青少年への音楽普及活動の功績が認められ、勲四等瑞宝章を受章。100歳を迎えた1999年6月19日には、青少年音楽協会60周年を祝う演奏会が日比谷公会堂で開催されました。その翌年、2000年11月27日に自宅で101歳で永眠しました。

人となりと住まい

エロイーズは生涯独身であり、私生活での交流は少なかったようです。彼女の遺産はすべて青少年音楽協会に受け継がれました。彼女と活動を共にした人々は、「心根は優しいが、間違ったことは許せず、人との衝突も度々あった。信念を貫く姿勢は並大抵のものではなかった」と語っています。

1953年、東京西麻布の根津美術館の隣に建てられた自宅兼事務所は、建築家アントニン・レーモンドの設計によるものでした。この建物は「カニングハム・メモリアルハウス」として現存しており、青少年音楽協会主催のサロンコンサートなどに使用されています。また、1958年4月の東京新聞には「東京は世界のどこの都会よりも変化に富んだ魅惑的な音に満ちている」という文章を寄せています。

長野県軽井沢は彼女が生涯愛した避暑地であり、幼少期から晩年まで夏を過ごしました。両親が建てた別荘の跡地には、1985年に新たな別荘を建てています（この建物は現在、作家の下重暁子が所有）。また軽井沢の別の地には、練習場兼コンサートホール「ハーモニーハウス」（1983年竣工）と別荘「メロディハウス」（1983年竣工）を建てました。3軒とも、レーモンドの弟子である吉村順三の設計によるものです。ハーモニーハウスは2015年より、地元の有志によりカフェ&シェアハウス「ELOISE’s Café」として開業されています。1988年8月に軽井沢で行われたワシントン・ポストのインタビューでは、軽井沢の観光地化・俗化を嘆いていますが、別荘のあたりはまだ静かだと語っています。

エロイーズ・カニングハムは、日本の青少年に対する音楽教育に情熱を注ぎ、その普及に尽力した偉大な人物として、その名は永く記憶されることでしょう。

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