エログロナンセンス

エロ・グロ・ナンセンスの文化現象

エロ・グロ・ナンセンスは、エロ（煽情的）、グロ（怪奇的）、ナンセンス（不条理）の要素を組み合わせた日本の文化的流行語です。この言葉は昭和初期、特に1930年代に多くの文芸作品やメディアに現れ、その時代の人々の心理や社会情勢を反映した重要な文化現象となりました。特にこの流れは、1929年の世界恐慌の影響を受け、1936年の2・26事件に至るまでの間に生まれ、多様で刺激的なコンテンツが盛り上がりを見せました。

精神背景と文芸界の動向

1930年に江戸川乱歩の『陰獣』が掲載されたことを皮切りに、猟奇小説のブームが巻き起こりました。同年、夢野久作が発表した『瓶詰の地獄』や、以降の『江戸川乱歩全集』の刊行などが、この潮流の中で特筆されます。乱歩と夢野の影響で、エロ・グロ・ナンセンスをテーマにした書物や雑誌が続々と登場し、特に1930年代初頭にはこの流行のピークが訪れました。しかし、1936年になると、戦時体制の進行に伴い規制が厳しくなり、これらの作品は相次いで発禁措置を受けることになります。

メディアの検疫とエロ・グロ・ナンセンス

この時期の出版物は内務省によって厳格に検閲され、エロ・グロ・ナンセンスに関連する書籍や雑誌は即座に発禁処分とされることがありました。そのため、一部の作品は検閲の前に市場に流通させる「ゲリラ発売」や、秘密裏に頒布される「地下本」として取り扱われることとなりました。例えば、1936年に発表された歌謡曲『忘れちゃいやョ』は、エロ歌謡として発禁の対象となり、また、レコード業界においても厳しい取り締まりが行われました。

文芸市場社と相対会

エロ・グロ・ナンセンスの中心的な出版を行った文藝市場社は、梅原北明によって運営され、多くの発禁本やアングラ作品を発信しました。直近の文献は、当時の文化を味わいながらも、後に復刊された雑誌『グロテスク』など、重要な資料として評価されています。同じく相対会も性に重点を置いた雑誌や報告書を発行し、会員制の形で広まりましたが、会員には有名作家の名も多く、文化的な影響を及ぼしました。

大手出版社の争いとエロ・グロ・ナンセンス

1930年代には、平凡社などの大手出版社がエロ・グロ・ナンセンスをテーマにした書籍を相次いで刊行し、発禁を恐れずに多くの作品をリリースしました。このようにして「世界猟奇全集」シリーズなどは、多数の発禁を受けながらも民衆から支持を集め、企業の立て直しにも貢献しました。

歌謡曲と舞台芸術の影響

歌謡曲においても「ネエ小唄」が流行し、佐藤千夜子や渡辺はま子といったアーティストが名を馳せましたが、特に渡辺の曲はその直接的なエロさから発禁に至りました。また、舞台劇では、浅草のカジノ・フォーリーがエロ・グロ・ナンセンスを取り入れたレヴューで人気を博し、その影響で他の劇団もこの流行に従うようになりました。しかし、警察による監視が厳しくなるにつれて、舞台も劇の質を向上させる方向に進化しました。

総括

エロ・グロ・ナンセンスは、歴史的な背景と文化的潮流を反映した独特な現象であり、今なおその作品や資料は新たな研究や探求の対象となっています。検閲や発禁を受けながらも、多様な表現活動が行われ、若者や大衆に多くの影響を与えたこの時代のエッセンスは、サブカルチャーとしての重要性を生み出し続けています。戦後、日本はエロ・グロ・ナンセンスの自由な時代を再び迎え、この文化は新たな解釈と理解を経て形を変えて現代に引き継がれているのです。

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