エロマンガ・スタディーズ

エロマンガ・スタディーズ 「快楽装置」としての漫画入門

永山薫によって2006年に著された本書は、エロティックな要素を主要テーマとする作品群、すなわち「エロ漫画」に対する社会的な偏見に一石を投じることを試みた書籍です。2014年には、「性と政治」に関する項目が追加された増補文庫版が出版され、稀見理都が監修を務めました。

概要

著者は、エロ漫画というジャンルに向けられる偏見に対し、その合理性を疑問視しています。しかし、著者自身もまた、そうした偏見から完全に自由ではないと告白しています。本書では、エロ漫画を考察することの意義を強調し、その独自性の探求を試みています。エロ漫画の歴史を考察するにあたり、リチャード・ドーキンスのミーム理論を基盤としています。

本書は、劇画調の表現、美少女キャラクター、ロリータ・コンプレックス、巨乳、近親相姦（特に妹系）、凌辱、純愛、SM、性的少数者、ジェンダーといった、エロ漫画に頻出するテーマを章ごとに取り上げ、考察を深めています。

著名な批評家である夏目房之介、小谷真理、東浩紀が推薦文を寄稿し、本書の学術的な価値を裏付けています。

翻訳版

本書は国際的にも評価されており、2020年1月には台灣東販から『成人漫畫研究史』というタイトルで中国語版が発売されました。さらに同年11月には、アムステルダム大学出版局から杉本バウエンス・ジェシカとパトリック・ガルブレイスによる英訳版『Erotic Comics in Japan: An Introduction to Eromanga』が出版され、世界中の読者に読まれています。

評価と影響

本書は、エロ漫画というジャンルの全体像を把握するための「格好のガイド」として高く評価されています。ダ・ヴィンチニュースの佐藤圭亮は、米沢嘉博の『戦後エロマンガ史』（青林工藝舎）と並び、エロ漫画研究の先駆的な業績として本書を位置づけています。

『エロマンガ表現史』の著者である稀見理都は、『エロマンガ・スタディーズ』に触発されたことが、エロ漫画の研究に本格的に取り組むきっかけになったと述べています。

また、本書は吉村和真とジャクリーヌ・ベルントが編集した人文書院の『マンガ・スタディーズ ブックガイドシリーズ 基本の30冊』にも選出されており、漫画研究における重要な一冊として認識されています。

本書は、エロ漫画というジャンルに対する固定観念を揺さぶり、多角的な視点からその魅力と可能性を再発見するための必読書と言えるでしょう。

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