エンサイン・N180

エンサイン・N180：悲劇と進化を刻んだF1マシン

1980年のF1世界選手権で、イギリスのレーシングチーム・エンサインが投入したフォーミュラ1マシン、エンサイン・N180。その開発からレースでの活躍、そして改良型N180Bの軌跡、さらにはその後の人生まで、数奇な運命を辿ったマシンとその周辺の人物に迫ります。

開発と誕生

ユニパートの支援を受け、デザイナーのラルフ・ベラミーとナイジェル・ベネットがわずか2ヶ月という短期間で設計を完了。1979年の秋には、一体型の滑らかなボディを持つN180が完成しました。そのデザインは、当時活躍していたウィリアムズ・FW07を彷彿とさせるものでした。心臓部は信頼性の高いコスワースDFVエンジンを搭載していました。

1980年シーズン：レガツォーニとN180の苦悩

アルゼンチングランプリで、ベテランドライバーのクレイ・レガツォーニがN180でF1デビューを果たしました。レガツォーニはフェラーリ、シャドウ、ウィリアムズと名門チームを渡り歩いた経験豊富なドライバーでしたが、この年再びエンサインに舞い戻っていました。

開幕戦アルゼンチンでは予選15位と低迷。決勝レースでもメカニカルトラブルに見舞われ、完走とはなりませんでした。続くブラジルグランプリでもエンジントラブルでリタイア。予選では安定したパフォーマンスを見せていましたが、レースではマシントラブルに苦しむ結果となりました。

しかし、運命の歯車はアメリカ西グランプリで大きく狂いました。4位を走行中にブレーキペダルの破損というアクシデントが発生。制御不能となったN180はコースアウトし、先にリタイアしていたマシンに接触、その後コンクリートウォールに激突するという大クラッシュを起こしてしまいました。この事故でレガツォーニは重傷を負い、下半身不随という悲劇に見舞われました。この事故を境に、N180プロジェクトは事実上停止しました。

レガツォーニの事故後、チームは代役ドライバーを起用してシーズンを続行。ティフ・ニーデル、そしてヤン・ラマースがステアリングを握りましたが、マシンの開発は進んでおらず、思うような結果を残すことができませんでした。シーズン後半には2台体制でジェフ・リースも参戦しましたが、予選突破に苦戦し、最高位も12位にとどまりました。

1981年以降：N180Bとその後

レガツォーニの事故から1年後の1981年、N180は改良が加えられ、N180Bとしてシーズンに臨みました。マルク・スレール、エリセオ・サラザールといったドライバーがドライブ。ブラジルグランプリで4位入賞とファステストラップを記録するなど、N180Bは健闘を見せました。1982年にはN181へと進化を遂げましたが、N180Bはその後、他のレースシリーズであるブリティッシュF1選手権、インターセリエ、Can-Amにも参戦し、その活躍の場を広げていきました。さらに、1982年にはジム・クロフォードがオーロラAFX F1シリーズでN180をドライブするなど、様々なレースシリーズでその姿を現しました。

エンサイン・N180は、その短くも激動に満ちたF1でのキャリア、そしてレガツォーニの事故という暗い影を背負いながらも、改良型のN180Bとして新たな道を切り開いていきました。F1の歴史における重要な1ページを、このマシンは刻み込んだのです。 N180とその改良型N180Bは、F1という舞台で輝きを放ちながらも、同時に悲劇を経験した、忘れられないマシンとして記憶されています。 その短いながらも濃密な歴史は、F1ファンにとって永遠の話題となるでしょう。

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