エンブラエル フェノム 100

エンブラエル フェノム 100：小型ジェット機の新たなスタンダード

エンブラエル フェノム 100は、ブラジルの航空機メーカー、エンブラエル社が開発した超軽量ジェット機です。型式証明はEMB-500として取得しています。2008年の初飛行以来、その洗練されたデザインと優れた性能で、世界中のビジネスパーソンやプライベートオーナーから高い評価を得ています。

デザインと特徴

フェノム 100は、7.985m³のキャビン容積を持ち、卵形の断面を持つ胴体が特徴です。機体には、高さ1.47m×幅0.74mのドアと、高さ36cm×幅30cmの窓が設けられており、快適な空間を提供しています。与圧されていない荷物室は1.56m³あり、十分な収納スペースを確保しています。機体の構造寿命は、28,000回の飛行または35,000時間の飛行とされています。機体全体の約20%には複合材が使用されており、軽量化と強度向上に貢献しています。

標準構成では4人の乗客を収容できますが、オプションとして横向きのシートとトイレ席を追加することで、最大7人の乗客と1人の乗員を搭乗させることが可能です。キャビンインテリアは、BMWグループのDesignworksUSAが担当し、高級感と機能性を兼ね備えた空間を実現しています。

機体後部には、プラット＆ホイットニー・カナダ製のPW617-Fターボファンエンジンが2基搭載されています。このエンジンは、気温10度の環境下で7.5kNの離陸推力を発揮し、二重化されたFADEC（フル・オーソリティ・デジタル・エンジン・コントロール）により、離陸時にエンジントラブルが発生した場合でも、エンジン出力を7.9kNまで自動的に増加させる機能を持っています。後継モデルであるPW617F-Eでは、10分間の推力が8.1kNに向上しています。最大航続距離は、4人搭乗時で2,182kmです。

開発の経緯

エンブラエルは、2005年4月に取締役会で超軽量ジェット機の開発を承認しました。同年11月9日には、NBAA（全米ビジネス航空協会）の年次総会で、この機体がフェノム 100と命名され、原寸大のモックアップが展示されました。初飛行は2007年7月26日にブラジルのサン・ジョゼ・ドス・カンポスで行われ、2008年12月9日にブラジルのNCAA（国家民間航空局）から型式証明を取得しました。最初のデリバリーは2008年12月24日に行われました。

多様な派生モデル

フェノム 100には、以下の派生モデルが存在します。

フェノム 100: シリーズ最初のモデルです。
フェノム 100E: 多機能スポイラーなどの改良が加えられたモデルです。
フェノム 100EV エボリューション: 重量軽減と推力増大により、上昇時間が短縮され、高高度・高温の空港での離陸性能が向上しました。Garmin G3000のタッチパネル型コックピットを搭載しており、機体価格は449万5000ドルです。

運航状況と価格

フェノム 100は、個人、企業、フラクショナル事業、チャーター事業、航空機管理事業、軍など幅広い分野で運用されています。2009年の価格は360万ドル、2015年には416万ドルでした。フェノム 100の飛行コストは1マイルあたり2～3ドルとされています。

軍事利用

フェノム 100は、以下の国で軍事用途にも利用されています。

パキスタン: 空軍がVIP輸送用に4機を運用しています。
イギリス: 空軍が軍事飛行訓練システムの一環として使用しています。2016年には5機が調達され、2033年まで空軍と海軍の乗員訓練に利用される予定です。

デリバリー状況

当初の計画では、2008年に15機、2009年に120～150機のデリバリーを予定していましたが、実際には2008年に2機、2009年に97機のデリバリーにとどまりました。2014年後半時点では30機の注文残がありました。2016年7月からは、全てのフェノムの生産がフロリダ州メルボルンに移管されており、年間96機のフェノムと72機のレガシー 500/450を生産できる体制となっています。2016年6月までに、170機以上のフェノムが主にアメリカ市場に向けて生産されました。

事故

2014年12月8日、機体記号N100EQのフェノム 100が、モンゴメリー郡エアパークの滑走路に接近中に住宅に墜落し、搭乗者3名と住宅にいた3名の計6名が死亡しました。NTSB（国家運輸安全委員会）の報告書では、氷結防止システムの重要性やパイロットの訓練不足が指摘されました。

スペック（フェノム 100EV）

乗組員: パイロット1人
乗客数: 5～7人
積載量: 最大755 kg、燃料満載時253 kg
全長: 12.82 m
全幅: 12.3 m
全高: 4.35 m
空虚重量: 3,275 kg
最大離陸重量: 4,800 kg
キャビン高度: 12,496 mで2,438 m相当
キャビン高: 1.5 m
キャビン長: 3.35 m
最大着陸重量: 4,480 kg
無燃料重量: 4,030 kg
搭載燃料: 1,272 kg
エンジン: プラット＆ホイットニー・カナダ製 PW617F1-Eターボファン 2基 (各7.7 kN)
最大速度: マッハ0.7
巡航速度: 750 km/h
最低制御速度: 180 km/h
V2(安全上昇速度): 状況によるが、概ね200 km/h
航続距離: 2,182 km（4人搭乗）
実用上昇限度: 12,497 m
燃費: 飛行1時間あたり、最初の1時間は414リッター、次の1時間は292リッター
離陸距離: 975 m
着陸距離: 741 m
航空電子機器: Embraer Prodigy Touch (Garmin G3000システムによる)

関連機体

エンブラエル フェノム 300
エクリプス 500
セスナ サイテーション マスタング
セスナ サイテーション M2
* HondaJet

フェノム 100は、その優れた性能と快適性から、ビジネスジェット市場において重要な位置を占めています。今後もその活躍が期待される機体です。

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