エンヴェル・パシャ

イスマイル・エンヴェル・パシャ：オスマン帝国の興亡と汎テュルク主義の夢

イスマイル・エンヴェル・1881年-1922年'>[パシャ]は、オスマン帝国末期を代表する軍人、政治家であり、青年トルコ人革命の中心人物として知られています。下級官吏の息子としてイスタンブールに生まれた彼は、陸軍士官学校を経て陸軍大学でドイツ語と軍事理論を学び、軍における優れた能力を発揮しました。マケドニアでの勤務中、秘密結社「統一と進歩委員会」に加入し、組織の中枢を担うようになります。

青年トルコ人革命と三頭政治

1908年、青年トルコ人革命が勃発。エンヴェルはサロニカで挙兵し、革命の成功に大きく貢献しました。憲法復活を達成した革命後、彼はベルリン駐在武官としてドイツに派遣されますが、1909年の反革命暴動の際には急遽帰国。鎮圧に尽力し、イスタンブール奪還に成功しました。アブデュルハミト2世の退位後も、イタリア・トルコ戦争や第一次バルカン戦争での活躍を経て、1913年にはクーデターを主導。陸軍大臣に就任し、メフメト・タラート・パシャ、アフメト・ジェマル・パシャとともに「三頭政治」を形成します。この三頭政治は、オスマン帝国の近代化と中央集権化を進める一方、強硬な政策を採ることで国内の不安定化も招きました。

第一次世界大戦と敗北

第一次世界大戦では、親独派のエンヴェルはドイツと同盟し、帝国の参戦を決定。汎テュルク主義、汎イスラーム主義を掲げ、中央アジアからバルカン半島に至るテュルク系諸民族の統一、イスラーム世界の結束を図りました。しかし、サルカムシュ作戦の失敗やアルメニア人虐殺など、多くの犠牲を伴う戦争遂行は、国内外の反発を招き、帝国の敗北を招くことになります。1918年、オスマン帝国はムドロス休戦協定を締結し、敗戦しました。

亡命とトルキスタンでの反乱

敗戦後、エンヴェルはタラートらとともにイスタンブールを脱出し、ドイツに亡命。その後、ソ連政府の支援を受け、トルキスタンのバスマチ運動に参加します。「大トゥラン革命軍司令官」を自称し、汎テュルク主義に基づく独立運動を展開しますが、赤軍の掃討作戦によって次第に勢力を失っていきます。1922年8月4日、フェルガナ盆地で赤軍の奇襲を受け、部下とともに壮絶な最期を遂げました。彼の死は、イギリス人ジャーナリスト、アーサー・ランサムによって「エンヴェル・パシャの最後の冒険」として世界に伝えられました。

エンヴェル・パシャの評価

エンヴェル・パシャは、近代化と中央集権化を目指した一方で、強硬な政策や戦争遂行によって多くの犠牲を生み出した複雑な人物です。汎テュルク主義という理想を追い求め、最期まで戦い続けた彼の生涯は、オスマン帝国の衰亡と、20世紀初頭の国際政治の激動を象徴する出来事として、今もなお議論の的となっています。彼の行動は、必ずしも成功したとは言えないものの、その大胆さと理想主義は、現代においても多くの議論を呼び起こし続けています。彼の功績と過ちを正しく評価することは、20世紀の歴史を理解する上で欠かせない要素と言えるでしょう。また、彼の生涯は、民族主義と帝国主義が複雑に絡み合った時代の悲劇的な側面を浮き彫りにしています。

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