オキゴンドウ

クジラ目ハクジラ亜目のマイルカ科に分類されるイルカの一種に、オキゴンドウ（学名：Pseudorca crassidens）がいます。この仲間はオキゴンドウ属を構成する唯一の種です。「シャチモドキ」や「キュウリゴンドウ」といった別名でも知られています。和名のオキゴンドウは「沖合に暮らすゴンドウクジラ」を意味し、その生息域を示唆しています。「キュウリゴンドウ」という別名は、その細長い体つきから名付けられたものと考えられています。

身体的特徴

マイルカ科の中では比較的大きな種であり、成長すると体長約6メートル、体重は約1,500キログラムに達することがあります。体表の色はほぼ一様に黒か非常に濃い灰色で、腹部の胸のあたりに灰色の模様が見られることがあります。寿命は60年程度と推定されています。体は全体的に細長く、背中には30センチメートルを超える長い背びれがあります。特に特徴的なのは、途中が曲がった形状をしている胸びれで、「肘」と呼ばれることもあります。

生態

オキゴンドウは通常、10頭から50頭ほどの群れを作って行動します。非常に活動的で素早い動きを見せることが多く、海面から高く飛び上がり、体を横向きにして海面に激しくぶつかる「ブリーチング」と呼ばれる迫力ある行動をしばしば行います。また、驚くほど穏やかなジャンプをすることもあります。好奇心が強いのか、人間の乗るボートに自ら近づいてくることも珍しくありません。時には海面から頭部を出し、口を開けて中に並ぶ44本の歯を見せつけることもあります。

食性と漁業への影響

「シャチモドキ」と呼ばれるゆえんは、その外見だけでなく、食性にもあります。オキゴンドウはシャチと同様に、イルカなど他の小型のクジラを捕食することが知られています。ほとんどのハクジラの歯は、丸呑みできるサイズの獲物を捕らえるのに適していますが、オキゴンドウとシャチは例外的に、それよりも大きな獲物の肉を抉り取って食べる能力を持っています。この能力から、延縄にかかった高級魚であるマグロ類などから、巧みに肉や内臓だけを食べ尽くしてしまうことがあり、深刻な漁業被害を引き起こす存在としても知られています。

生息域と保全状況

海上での目撃例はそれほど多くありませんが、オキゴンドウは温帯から熱帯の広い海域にわたって世界中に分布しています。大西洋、インド洋沿岸、太平洋（特に日本海からニュージーランドにかけての西太平洋や、東太平洋）、地中海、紅海など、様々な海で見られます。沖合の深い海を好む外洋性のクジラですが、沿岸域にも生息しており、比較的浅い場所で観察されることも少なくありません。

全世界での正確な生息数は不明であり、情報の不足が課題となっています。最も生息数が多いと推測されている東太平洋では、4万頭を超える個体が生息していると推定されています。IUCN（国際自然保護連合）のレッドリストにおいては、かつては「低リスク」と評価されていましたが、2001年以降は「情報不足」(DD)に分類されています。アメリカ合衆国では、2012年11月にハワイ諸島周辺の個体群（約150頭）が絶滅危惧種に指定されました。これは、生息数が追跡されているハワイにおいて、商業漁業による意図しない捕獲（混獲）が持続不可能な水準にあることなどが懸念されているためであり、他の海域でも同様の漁業が行われていることが、この種の将来に対する懸念材料となっています。

人間との関わり

オキゴンドウは、数は多くないものの、西インド諸島やインドネシア、そして日本でも捕獲が行われています。特に日本では、少数が毎年捕獲されています。

前述のように、延縄にかかった魚類を食べてしまうことから、オキゴンドウは漁業者からは敬遠される存在となっています。そのため、過去には延縄漁業者によって駆除された例もあります。特に日本の壱岐島では、1965年から1980年の間に約900頭が駆除されたという記録が残っています。

一方で、人間との良好な関係が築かれる場面もあります。2005年6月には、西オーストラリアの湾で約140頭のオキゴンドウが集団で座礁するという出来事がありました。現地の政府機関の指揮の下、1,500人ものボランティアが救助活動にあたり、1頭は残念ながら命を落としましたが、ほとんどの個体を無事に海へ戻すことに成功しました。

また、オキゴンドウは人間に慣れやすい性質を持っており、世界中の多くの水族館で飼育されています。時にはイルカショーに出演し、観客を楽しませることもあります。

特筆すべき記録

日本の下田海中水族館（静岡県下田市）では、1970年からメスの「ジャンボ」という個体が飼育されていました。ジャンボは2006年に亡くなるまで36年以上にわたり飼育され、当時のオキゴンドウの飼育記録としては世界最長となりました（推定年齢40歳）。

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