オグドアド

概要

「オグドアド」とは、古代エジプトのヘルモポリス（現在のエル＝アシュムーネイン）で崇拝されていた、世界の始まりを司る八柱の神々を指します。その名称はギリシャ語の「ογδοάς」に由来し、「八」を意味します。これらの神々は特に紀元前2686年から紀元前2134年にかけての古王国時代に篤く信仰されました。

オグドアドは、それぞれが宇宙の根源的な様相を象徴する四対の夫婦神によって構成されます。男性神は通常カエルに、女性神はヘビの姿で表現されることが多かったとされます。彼らはヘルモポリスにおける創造神話の中心的存在であり、原初の混沌から秩序ある世界を生み出したと考えられていました。

神々の構成

オグドアドを構成する八柱の神々は、資料によってその組み合わせに若干の違いが見られますが、多くの場合、以下の四つの根源的な概念を司る対神が含まれます。

1. 原始の水（ヌンとナウネト）: 存在しない前の、広大で形を持たない原始の海を象徴します。
2. 無限または不定の時間（フフまたはフウ、ハウヘト）: 空間的な無限や永遠の時間を表します。
3. 闇（ククまたはケク、カウケトまたはケケト）: 原初的な暗闇を司ります。

これらの三対は多くの伝承で共通して挙げられますが、最後の第四対や他の神々の組み合わせについては複数の異説が存在します。

不可視（アメンとアマウネトまたはアメンテト）: 「隠されたもの」「見えないもの」を意味し、後の時代にテーベの主神となるアメンとその配偶者アマウネトが挙げられることがあります。ピラミッド・テキストにもこの組み合わせが見られます。
否定または虚無（ニアウまたはニア、ニアウトまたはニアト）: 存在しないことや無を象徴する神々が含まれるとする資料もあります。
欠乏または不在（ゲレフまたはゲルフ、ゲルヘトまたはゲレフト）: 何かが満たされていない状態や不在を表す対神が挙げられる説も存在します。
薄明かりまたは彷徨うもの（テネムまたはテネムー、テネムトまたはテネムート）: 暗闇から光への移行や、定まらない状態を示す神々の対が挙げられることもあります。

これらの夫婦神は、男性神と女性神が同じ概念の異なる側面を表しており、女性神の名前はしばしば男性神の名前を女性化した形になっています。これは、彼らが本質的には分かちがたい一体のものであることを示唆しています。

創造神話

ヘルモポリスのオグドアドに関する創造神話は、古代エジプトの宇宙観、特にナイル川の氾濫とその後の土地の出現という現象に影響を受けていると考えられます。多くの伝承で語られるのは、まず「ヌン」と呼ばれる広大な原初の水（混沌）が存在し、その中から「原初の丘」が現れたというものです。この原初の丘は、ナイル川の氾濫が引いた後に現れる高台に触発されたイメージとされます。

八柱の神々は、この原初の混沌から現れ、世界の創造において重要な役割を果たしました。彼らは宇宙の秩序を確立し、特に毎日の太陽の昇降や、エジプトにとって生命線であるナイル川の水が絶えず流れるようにしたと信じられていました。また、太陽神ラーが誕生するきっかけとなった最初の睡蓮を生み出したのも彼らだとされています。

オグドアドが世界を統治した時代は「黄金時代」と見なされましたが、彼らはその役割を終えた後、冥界へと去ったと語られます。

ヘルモポリスには、オグドアドに関連するいくつかの創造神話の異本が伝わっています。これらの物語は、ヘルモポリスの神殿に隣接する聖なる湖とその中に浮かぶ島（この島はしばしば原初の丘と同一視されました）と結びついていました。この聖地は多くの巡礼者を集め、様々な儀式が執り行われました。

卵の異本

ある伝承では、太陽神ラーは、オグドアドが創造した卵の中から生まれたとされます。この卵を「天の鵞鳥」が産んだとする説や、単に卵の中に空気が満たされていたとする説があります。また別の異本では、知恵の神トートと関連付けられる朱鷺が卵を産んだとされています。これは、オグドアドよりも時代が新しいトート神を、より古い原初的な創造神話体系に組み込もうとする試みだったと考えられます。

睡蓮の異本

もう一つの主要な伝承では、原初の水から巨大な睡蓮が現れ、その花が開くと中から太陽神ラーが生まれたと語られます。さらに詳細な異本では、睡蓮の中からまずタマオシコガネ（フナムシ）が現れ、この虫が瞬く間に幼い少年の姿に変わったとされます。この少年はネフェルトゥム神と同一視されることがあり、彼が流した涙から人間が生まれたという物語もあります。タマオシコガネは太陽の運行を象徴する昆虫であり、また睡蓮の花が太陽の昇降に合わせて開閉することから、睡蓮の伝承は太陽神崇拝と深く結びついていました。

これらの異本は、オグドアドという原初的な神々が、どのようにして太陽神ラーや人間を含む世界の全てを生み出したのかを説明するための、古代エジプト人の多様な試みを示しています。

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