オゴニ民族生存運動

オゴニ民族生存運動（MOSOP）：石油と弾圧の歴史

ナイジェリア南部、ニジェール・デルタに位置するオゴニ地域。この地では、先住民オゴニの人々が、石油開発による環境破壊と民族的権利の侵害に長年苦しんできました。オゴニ民族生存運動（MOSOP: Movement for the Survival of the Ogoni People）は、そうした状況下で生まれた社会運動です。

MOSOPは、オゴニの人々の権利と環境を守るため、ナイジェリア政府と、同地域で石油採掘を展開するロイヤル・ダッチ・シェル社を主な批判対象として活動しています。運動には、オゴニ民族全国青年評議会（NYCOP）やオゴニ女性協会連盟など、様々な組織が参加しています。

運動の展開と主要人物

MOSOPの活動の中心は、シェル社による環境汚染への抗議です。運動の指導者として重要な役割を果たしたのは、ジャーナリストでNYCOP議長でもあったグッドラック・ディイグボ氏と、作家でアフリカ少数民族（先住民）権利機構（EMIROAF）代表も務めたケン・サロ＝ウィワ氏です。サロ＝ウィワ氏は、MOSOPの10の目標のうち7つを策定し、オゴニの教育を受けたエリートや首長らと協力して運動を展開しようとしました。しかし、当初協力関係にあったエレメとの間には、のちに亀裂が生じています。

1990年8月、MOSOPは「オゴニ権利章典」（オゴニ人権宣言）を採択し、オゴニの自治、環境汚染の修復、石油生産からの利益配分、文化的な権利などを要求しました。この宣言は、オゴニがナイジェリア連邦とは異なる独自の民族集団であるとする明確な主張を含んでいました。近隣の先住民エチェでの虐殺事件が国際的な注目を集めたことも、オゴニ問題への関心を高める要因となりました。

国際的な訴えと政府の弾圧

MOSOPは1992年、代表なき国家民族機構（UNPO）に参加し、国際連合人権委員会の先住民族問題作業部会にも参加しました。同年、シェル社、シェブロン社、ナイジェリア国営石油会社に対して、100億米ドル規模の補償請求を行いました。1993年には大規模な抗議デモも展開されましたが、石油パイプラインの漏洩事故をきっかけに、政府と住民の衝突が激化します。この頃、イブラヒム・ババンギダ政権は軍を派遣するなど強硬な姿勢をとり、サロ＝ウィワ氏ら指導層は繰り返し逮捕されました。

サニ・アバチャ政権下では、シェルの圧力も加わり、1994年5月、オゴニの村が軍と武装警官によって襲撃されました。政府は、オゴニの保守的な首長4人の殺害容疑をサロ＝ウィワ氏らに被せ、弾圧を正当化しました。アムネスティ・インターナショナルはこの襲撃を計画的なテロ行為として非難し、多くの死者と避難民が出ました。最終的に、サロ＝ウィワ氏ら9人は1995年11月、殺人教唆の罪で処刑されました。

1996年にも抗議行動が行われ、犠牲者が出ました。MOSOPの活動は、その後も様々な困難に直面しながら、オゴニの人々の権利と環境保護を求めて継続されています。

参考文献

Kretzman, Steve, “Nigeria’s ‘Drilling Fields’: Shell Oil’s Role in Repression,” Multinational Monitor, January/February 1995 (XVI:1-2).
“Witness: Delta Force,” Canadian Broadcasting Corporation, 1995.
戸田真紀子「ナイジェリア−地域大国と貧困国の2つの顔−」『日本比較政治学会ニューズレター』第18号 日本比較政治学会 2007年5月。
望月克哉「ナイジェリア石油産出地域における社会運動の展開とその背景（文献レビュー）」重冨真一 編『開発と社会運動―先行研究の検討―』第4章 アジア経済研究所 2007年。
* 望月克哉「ナイジェリアの石油産業―歴史的展開と問題点―」坂口安紀 編『発展途上国における石油産業の政治経済学的分析―資料集―』アジア経済研究所 2008年。

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