ニジェール・デルタ

ニジェール・デルタ：豊かな自然と複雑な課題を抱える三角州

ニジェール・デルタは、ナイジェリア南西部に位置し、ギニア湾に面したニジェール川の広大な三角州地帯です。この地域は、多様な民族が共存し、豊かな自然に恵まれてきましたが、石油開発に伴う環境問題や社会問題も深刻化しています。

歴史と文化

ニジェール川の河口一帯は、マングローブ林を中心とする熱帯雨林が広がり、古くからベニン王国などの多くの民族が栄えてきました。しかし、イギリスの植民地時代になると、アブラヤシの栽培が盛んになり、「オイル・リバーズ」と呼ばれるようになりました。1885年にはイギリスの保護領となり、1893年にはニジェール海岸保護領に組み込まれました。

地理と人口

ニジェール・デルタは、ナイジェリア政府の公式な定義によれば、7万平方キロメートルにおよび、ナイジェリア国土の7.5%を占めています。アフリカ最大の三角州であり、アクワ・イボン州、アビア州、イモ州、エド州、オンド州、クロスリヴァー州、デルタ州、バイエルサ州、リヴァーズ州の9つの州にまたがっています。約2千万人が居住し、250以上の言語を話す40以上の民族が暮らしています。先住民の主要な産業は、伝統的に漁業と農業です。

石油開発の影響

1950年代後半に油田開発が始まって以来、ニジェール・デルタはナイジェリアの主要な産油地帯となり、ポートハーコートがその中心地となりました。ナイジェリアはアフリカ最大の石油産出国となり、日量200万バレルもの石油を生産しています。1975年以降、この地域の石油収入はナイジェリアの輸出高の75%以上を占めるようになりました。しかし、石油開発は環境破壊や社会的な不平等を深刻化させる要因ともなっています。

生物多様性

三角州の熱帯雨林とマングローブには、スクレーターグエノン、アカハラグエノン、ニジェールアカコロブスなど、多様な動物が生息しています。また、オグタ湖、上オラシ森林保護区、西アポイ分流一帯はラムサール条約登録地であり、重要な湿地帯として保護されています。

治安と紛争

20世紀後半以降、石油生産に伴う環境破壊や石油収入の配分の不公平さなどが原因で、地元住民の不満が高まっています。1998年には大規模なパイプライン爆発事故が発生し、1200人以上が犠牲になりました。このような状況下で、環境運動や民族紛争が頻発しています。ビアフラ戦争、オゴニの虐殺、ニジェール・デルタ解放運動による誘拐事件などがその例です。石油開発は、地域住民の伝統的な経済基盤である農業や漁業にも大きな影響を与えています。さらに、2010年代後半からは、ナイジェリア沿岸で海賊行為が頻発しており、その多くは貧困にあえぐニジェール・デルタ出身者であると推測されています。

環境問題

ニジェール・デルタは、石油施設の老朽化や盗掘目的の人為的な破壊により、毎年400件以上の石油流出が発生しており、地球上で最も汚染された場所の一つとなっています。石油流出によって水や土地が汚染され、農業や漁業が成り立たなくなっています。また、マングローブは石油流出による枯死や貧困にあえぐ住民による違法伐採で減少しており、海面上昇も加わって沿岸地域は海岸侵食に苦しんでいます。

まとめ

ニジェール・デルタは、豊かな自然と多様な文化を持つ地域でありながら、石油開発による環境問題や社会問題が深刻化しています。持続可能な開発と地域住民の生活改善が、この地域の課題となっています。

脚注

Environmental Rights Action
米国科学振興協会 Niger Delta Project
Apoi Creek Forests | Ramsar Sites Information Service
Oguta Lake | Ramsar Sites Information Service
*Upper Orashi Forests | Ramsar Sites Information Service

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