オテロ (ロッシーニ)

ロッシーニの歌劇『オテロ』：ヴェネツィアを舞台にした愛と苦悩の物語

ジョアキーノ・ロッシーニが1816年に作曲した3幕のオペラ・セリア『オテロ、あるいはヴェネツィアのムーア人』は、シェイクスピアの悲劇『オセロー』を原作としています。しかし、物語は原作から大胆に脚色されており、ロッシーニならではの音楽表現が際立つ作品となっています。

作品の背景

1815年、ロッシーニはナポリの劇場支配人ドメニコ・バルバイアと契約を結び、毎年新作オペラを作曲することになりました。『オテロ』はその契約下で生まれた作品の一つで、1816年12月4日にナポリのフォンド劇場で初演されました。この作品は、ロッシーニが手がけた19番目のオペラであり、『セビリアの理髪師』と『チェネレントラ』という2つの喜劇オペラに挟まれて作曲された悲劇という点でも特筆されます。

当時のナポリの劇場は、才能あるテノール歌手を多数抱えていました。ロッシーニは、これらの歌手たちの力量を最大限に引き出すため、オテロ、ロドリーゴ、イアーゴという3人のテノールのために、高度な技術を要するアリアを作曲しました。

台本は、サルツァ侯爵フランチェスコ・マリア・ベリオが手がけました。しかし、ベリオはシェイクスピアの原作に直接基づいたのではなく、ジャン＝フランソワ・デュシ版『オテロ』と、ハッピーエンドに改変されたジョヴァンニ・カルロ・コゼンツァ版『オテロ』から着想を得ています。そのため、物語は原作から大きく異なっており、第3幕のみが原作に比較的忠実な内容となっています。

物語の魅力と音楽

ロッシーニの『オテロ』は、ヒロインであるデズデーモナの描写に重点が置かれています。彼女の悲しみや苦悩が、美しい音楽によって表現されています。特に、第3幕冒頭のゴンドラ乗りの歌「これほどつらいことはない」と、デズデーモナのアリア「柳の根元に座り」は、聴衆の心を深く捉えます。「柳の歌」は、その美しい旋律から広く親しまれており、フランツ・リストがピアノ曲の主題に用いたほか、マウロ・ジュリアーニがギター曲の変奏曲を作曲するなど、後世の音楽家にも大きな影響を与えました。

評価と影響

19世紀後半にヴェルディの『オテロ』が登場すると、オペラ『オテロ』といえばヴェルディの作品を指すことが一般的になりました。しかし、ロッシーニの『オテロ』も、1890年までの75年間に26か国87都市で290回も上演されるほどの人気を博し、ロッシーニの悲劇オペラの中でも最も成功した作品の一つでした。

ヴェルディ版と比較すると、ロッシーニ版はより控えめな物語展開となっていますが、オペラの結末を悲劇のままにしたことは評価できます。もっとも、ハッピーエンド版も存在します。

あらすじ

物語は、トルコとの戦いに勝利したオテロがヴェネツィアに凱旋するところから始まります。しかし、オテロとデズデーモナの愛は、嫉妬と陰謀によって引き裂かれていきます。イアーゴの策略によって、オテロはデズデーモナの貞節を疑い、激しい怒りにかられます。第3幕では、絶望したデズデーモナが「柳の歌」を歌い、愛する人への想いを吐露します。そして、物語は悲劇的な結末へと向かいます。最後はオテロが自害し幕を閉じます。

ロッシーニの『オテロ』は、愛、嫉妬、裏切り、そして人間の心の闇を描いた傑作です。美しい音楽と劇的な展開は、聴衆を魅了し続けています。

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