オマーン帝国

オマーン帝国：インド洋制覇の興亡

オマーン帝国は、19世紀、インド洋とペルシア湾でイギリスやポルトガルと覇権を争った海洋国家でした。現在のオマーンを拠点に、その勢力は北はイラン、パキスタン、南はアフリカのデルガド岬にまで及ぶ広大な版図を築き上げました。しかし、最盛期を過ぎた19世紀半ば、帝国は分裂という道を辿ることになります。

地域大国の隆盛：ポルトガルからの独立と勢力拡大

マスカットは古くから重要な交易拠点でしたが、1507年から1650年にかけてポルトガルの支配下にありました。しかし、ヤアーリバ朝の創始者ナーシル・ビン・ムルシドの抵抗運動により、ポルトガル勢力は徐々に衰退。17世紀半ば、オマーンはポルトガルからマスカットを奪還し、その際に得た大型帆船は、後の帝国の貿易繁栄に大きく貢献しました。

勢力を拡大したオマーンは、イランのサファヴィー朝とも衝突。ホルムズ要塞包囲戦（1670年頃）やペルシア湾での貿易妨害など、積極的な外交・軍事活動を展開しました。サイフ・ビン・スルターン時代には、モンバサ攻略（ジーザス要塞包囲戦、1696年～1699年）を成功させ、アフリカ東海岸への進出を加速。1783年には、現在のグワーダル（パキスタン）まで勢力を拡大しました。ザンジバル諸島への大規模な移民も、オマーン帝国の南方への影響力を強める一因となりました。

ヤアーリバ朝：農業と貿易の振興

サイフ・ビン・スルターンは、オマーンの農業改良に尽力しました。内陸部への灌漑施設整備や、ナツメヤシ栽培の促進など、農業生産の向上に貢献。彼は学校建設なども行い、ルスタックには宮殿を建設しました。莫大な富を築いたサイフ・ビン・スルターンは、1711年に亡くなりました。

オマーンは古くから貿易に力を入れていました。ナーシル・ビン・ムルシドは、1646年にイギリス東インド会社と通商条約を結び、デーツとコメや武器の交換貿易を開始。その後、ペルシアやインドとの貿易も盛んになり、インド洋沿岸諸国を結ぶ中継貿易拠点として発展しました。モカからのコーヒー輸出も重要な収入源でした。ブーサイード朝になると、インドとの貿易がさらに拡大し、多くのインド人がオマーンで活躍するようになりました。

イギリスとの同盟と帝国の衰退

ブーサイード朝のスルターン・ビン・アフマドは、フランスの脅威に対抗するため、イギリスと同盟を結びました。1798年の通商航海条約締結により、イギリスはペルシア湾に交易所を設立し、イギリス領事がマスカットに派遣されました。イギリスは、オマーンにおける奴隷制廃止にも圧力をかけました。

サイイド・サイードの時代、オマーン帝国は最盛期を迎えました。しかし、サイイド・サイードの死後、後継者争いが勃発。1856年、イギリスの仲介により、帝国はザンジバル・スルターン国とマスカット・オマーンの2つのスルターン国に分割されました。ザンジバルはマージド・ビン・サイード、マスカット・オマーンはスワイニー・ビン・サイードがそれぞれ支配することになりました。帝国の分裂は、オマーン帝国の終焉を告げました。

結論

オマーン帝国は、ポルトガルからの独立から始まり、積極的な外交と貿易によってインド洋における一大勢力となりました。しかし、内部紛争や列強との関係の中で、最終的には分裂という道を歩むことになりました。その興亡の歴史は、海洋帝国の盛衰を理解する上で貴重な教訓を与えてくれます。そして、その歴史は、現代のオマーンの礎を築いた重要な時代であったといえるでしょう。

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