グワーダル

グワーダルは、パキスタン南西部のバローチスターン州に位置する、アラビア海に面した重要な港湾都市です。地元バローチ語で「風の門」を意味するこの地は、中国とパキスタンを結ぶ経済回廊（CPEC）の要として、近年急速な開発が進められています。

歴史

1797年から1958年までの間、グワーダルはアラビア海の対岸に位置するオマーンの領土でした。オマーン時代には自由港として栄え、輸入品が安価であったため、パキスタンからの訪問者も多く、密輸も横行していました。

1783年にオマーン宮廷で内紛が発生し、スルターン・ビン・アフマドが追放された際、カラート藩王国が彼をグワーダルのスルターンとして迎えました。しかし、彼は後にオマーンへ帰国し、1792年に国王に即位したため、グワーダルはオマーンの飛地領土となりました。

19世紀後半には、グワーダル周辺の王国がイギリスの保護国となり、1891年にはオマーン自体もイギリスの保護国となりました。1947年のパキスタン独立後、グワーダル地域の帰属が問題となりましたが、1958年にオマーンが300万ポンドでパキスタンに売却したことで、その飛地としての歴史に終止符が打たれました。

近年の動向

1998年のパキスタン核実験による経済制裁で、グワーダルの深海港開発計画は一時中断されました。しかし、2001年に中国の朱鎔基国務院総理が訪問し、当時のパキスタン大統領と港湾建設で合意。2002年に建設が開始され、2007年にグワーダル港が完成しました。当初、40年間の運営権はシンガポールのPSAインターナショナルに譲渡されました。

2013年、パキスタン政府はPSAから運営権を回収し、中国企業に移譲することを決定しました。この動きは、中国が主導するCPECにおけるグワーダルの戦略的重要性を反映しています。

2016年11月には正式に開港し、当時のナワーズ・シャリーフ首相は「新しい時代の幕開けだ」と演説しました。現在、グワーダル港周辺の24平方キロメートルは、安全確保のため有刺鉄線で囲まれています。

地政学的背景

インドは、グワーダル港が中国に軍事利用される可能性を警戒しており、イランのチャーバハール港の開発をグワーダル港への対抗措置とみなしています。一方、中国とパキスタンの同盟関係は、サウジアラビアなどの国々との協力関係にも影響を与えています。当初、サウジアラビアはグワーダルに製油所を建設する計画でしたが、後にカラチ近郊へと変更しました。

2020年1月には、中国の海運会社がアフガニスタン発着の貨物を取り扱い始め、内陸国であるアフガニスタンの貿易ルートとしての重要性が高まっています。

住民

グワーダルには、オマーンとパキスタンの二重国籍を持つ人々が多く、アフリカ系の住民もいます。宗教はイスラム教が主流で、イスマーイール派の影響力が強い地域です。

グワーダルは、その戦略的な位置から、地政学的な緊張と開発の進展が交差する場所として、今後もその動向が注目されるでしょう。

関連項目

真珠の首飾り戦略

外部リンク

CPEC | China-Pakistan Economic Corridor (CPEC) Official Website
* Gwadar（英語） bdd.sdnpk.org

もう一度検索