ジョット・ディ・ボンドーネ

ジョット・ディ・ボンドーネ：西洋絵画の父

ジョット・ディ・ボンドーネ（約1267年 - 1337年 1月8日）は、中世後期のイタリアを代表する画家であり、建築家でもあります。フィレンツェ近郊で生まれたとされ、その革新的な絵画様式は、後世のイタリア・ルネサンスに多大な影響を与えました。そのため、しばしば「西洋絵画の父」と称えられるのです。

同時代の評価と歴史的影響

ジョットと同時代の画家ジョヴァンニ・ヴィッラーニは、ジョットの人物描写の自然さ、卓越した技術を絶賛し、フィレンツェのお抱え画家として活躍したと記しています。16世紀の画家・伝記作家ジョルジョ・ヴァザーリもまた、ジョットがビザンティン美術の伝統を破り、現実味あふれる絵画様式を生み出したと高く評価しています。

ジョット以前の西洋絵画は、ビザンティン様式が主流でした。しかし、ジョットは人物や空間を三次元的に表現し、人物の感情を自然に描き出しました。背景との適切な比率や、自然な人物の大きさ、衣服の質感など、細部にもこだわった描写は当時としては画期的で、後の絵画表現に大きな影響を与えました。

代表作：スクロヴェーニ礼拝堂の装飾画

ジョットの代表作として最も有名なのは、1305年頃に完成したパドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂のフレスコ画です。聖母マリアとイエス・キリストの生涯を描いたこの作品群は、初期ルネサンス絵画の最高傑作の一つとされており、ジョットの芸術的才能を余すところなく示しています。スクロヴェーニ礼拝堂の壁画制作後、ジョットはフィレンツェ大聖堂の鐘楼のデザインも任されています。

生涯と作品に関する謎

ジョットの生涯については、多くの不明な点が残されています。生誕地、生年月日、死没地、外見、弟子時代、作品依頼主などは、未だに議論の的となっています。特に、アッシジのサン・フランチェスコ大聖堂のフレスコ画がジョットの作品かどうかは、長年に渡り美術史家の間で激しい論争が繰り広げられてきました。

生誕地と出自

ジョットの生誕地については、いくつかの説があります。古くからの説では、ロマニャーノまたはロミニャーノという村の農家、1850年以降はヴェスピニャーノの村の城館、そして最近の研究ではフィレンツェの鍛冶屋の息子とする説などがあります。父親の名前はボンドーネで、裕福な人物であったという記録が残っています。「ジョット」という名前が本名なのか、アンブロジョットやアンジェロットの略称なのかも不明です。

弟子時代とチマブーエ

ヴァザーリは、ジョットが羊飼いの少年時代に、岩に描いた羊の写実性からチマブーエに師事したという逸話を伝えています。しかし、多くの学者はこの逸話を伝説とみなしており、ジョットがチマブーエの弟子だったという証拠は不足しています。

サン・フランチェスコ大聖堂のフレスコ画

アッシジのサン・フランチェスコ大聖堂の上堂にある聖フランチェスコの生涯を描いたフレスコ画群は、ジョットの作品かどうかが大きな論争となっています。ナポレオンのイタリア侵攻時に関連記録が失われたため、断定的な証拠がありません。技術的な分析の結果、現在はジョットの作品ではないとする説が有力になっています。

その他の作品と晩年

ジョットの作品として考えられている多くの絵画についても、同様の議論がなされています。サンタ・マリア・ノヴェッラ教会の絵画群、サント・ステファノ・アル・ポンテ聖堂の『聖母子』、ルーブル美術館の『聖痕を受ける聖フランチェスコ』などは、その真偽が問われています。

ジョットは1301年から1304年にかけてフィレンツェで大きな工房を経営し、イタリア全土から絵画制作の依頼を受けていたと推測されています。代表作であるスクロヴェーニ礼拝堂のフレスコ画以外にも、フィレンツェのサンタ・クローチェ聖堂、バチカン美術館のステファネスキの三連祭壇画、ナポリでの作品などが知られていますが、その多くはジョットの作品かどうかの議論が続いています。

晩年にはサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の鐘楼の建築にも携わっています。

ジョットの死後

ジョットの死後、埋葬場所をめぐっても議論がありました。ヴァザーリの記述では、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂に埋葬されたとされていますが、別の記録ではサンタ・レパラタ聖堂に埋葬されたとも伝えられています。1970年代の発掘調査では、サンタ・レパラタ聖堂跡から骨格が発見され、ジョットのものと推測されています。しかし、その真偽はなお議論されています。

ジョットの芸術的遺産

ジョットは、自然主義的な表現と人物描写で、西洋絵画の歴史に大きな足跡を残しました。彼の作品は、後のルネサンス芸術家たちに大きな影響を与え、近代絵画の礎を築いたと評価されています。現在でも、彼の作品は人々を魅了し続け、その芸術的功績は高く評価されています。

もう一度検索