オンコリンクス・ラストロスス

オンコリンクス・ラストロスス（剣歯ザケ）

オンコリンクス・ラストロスス（Oncorhynchus rastrosus）は、新第三紀に生息していた絶滅したサケの一種です。その巨大なサイズと、牙のように発達した歯が特徴で、セイバートゥースサーモン（saber-toothed salmon）とも呼ばれていました。

発見と名称

最初の化石は1917年に発見されましたが、本格的な研究は1972年に始まりました。当初はSmilodonichthysという独自の属名が与えられましたが、これは同じく牙を持つスミロドン（Smilodon）にちなんだものです。その後、1993年の研究で現生サケ属に分類され、学名がOncorhynchus rastrosusに変更されました。

和名では剣歯ザケと呼ばれることがありますが、これは旧学名に由来します。英名もセイバートゥースサーモンが一般的でしたが、歯の向きに関する再評価の結果、スパイクトゥースサーモン（spike-toothed salmon）という名称がより適切だと考えられるようになりました。

分布と生息年代

オンコリンクス・ラストロススの化石は、中新世中期から鮮新世前期の地層から発見されています。アメリカのカリフォルニア州からワシントン州にかけての沿岸域で多く見つかっており、海洋と淡水の両方の地層から化石が出土しています。2021年には、日本国内でも群馬県安中市で歯の化石が発見され、これは北西太平洋地域における最初の確実な化石記録となりました。

形態

オンコリンクス・ラストロススは、史上最大のサケ類の一つであり、その大きさは現生のアムールイトウを凌駕します。推定全長は最大で2.7メートルに達し、体重は約195キログラムと推定されています。

最大の特徴は、上顎に一対の巨大な歯を持っていたことです。当初、この歯は剣歯虎のように下向きに生えていたと考えられていましたが、CTスキャンを用いた再調査の結果、実際にはキョンやイボイノシシのように横向きに生えていたことが判明しました。

現生サケと同様に、性的二形が見られ、オスはメスよりも長い鋤骨を持ちます。しかし、現生サケとは異なり、前上顎骨には雌雄差が見られません。また、現生サケと比較して、非常に長く発達した鰓耙を多数持っており、これはプランクトン食への適応を示唆しています。

生態

オンコリンクス・ラストロススは、現生サケと同様に、海から川へ遡上して産卵する生活を送っていたと考えられています。歯の大きさは成長とともに発達し、特に淡水域で発見される成体の化石では、歯が著しく発達・摩耗していることが確認されています。歯の向きや鰓の構造から、プランクトンを主食としていたと考えられており、巨大な歯は捕食のためではなく、外敵からの防御や繁殖期の競争に用いられた可能性があります。また、産卵床を形成する際に歯を利用した可能性も指摘されています。

関連項目

* スミロドン - 旧学名の由来となった、剣歯を持つ哺乳類。

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