オヴ・アラップ

サー・オヴ・アラップ：革新的な構造設計のパイオニア

サー・オヴ・アラップ (1895-1988) は、20世紀を代表するイギリスの構造家です。デンマークで生まれ、コペンハーゲン大学とデンマーク工科大学で工学と哲学を学びました。彼の経歴は、土木工学から建築構造への関心の移行、そして、建築家との緊密な協働という2つの重要な特徴によって彩られています。

建築家との協働と革新的な設計

アラップは、デンマークの建設会社を経て1925年にロンドンへ移住しました。初期のキャリアでは土木工学に従事していましたが、次第に建築構造への関心を深め、建築家との協働を通して才能を開花させます。特に、建築家ベルン・リューベトキンとの協働で設計されたハイポイント住宅は、彼の初期の代表作として知られています。

ロンドン動物園のペンギン・プールやゴリラ館、フィンズバリー・ヘルスセンターなどのプロジェクトでは、コンクリート構造の新しいアイデアを積極的に取り入れました。特にコンクリート耐力壁の利用は、彼の先見性を示すものです。これらの建物は、単なる構造物ではなく、革新的な設計思想と技術的精度の高さを融合させた傑作として高く評価されています。第二次世界大戦中は防衛プロジェクトにも携わり、その幅広い経験は後の活動の基礎となりました。

アラップ・アソシエイツの設立と世界的成功

アラップの真の功績は、1963年に設立したアラップ・アソシエイツにあります。この会社は、建築家とエンジニアの連携を重視し、多様な専門家の協働によって、複雑な構造問題への解決策を生み出しました。シドニー・オペラハウスの設計におけるヨーン・ウッツォンとの協働は、この連携の成功例としてよく知られています。

アラップ・アソシエイツは、ブラックネルのポイントロイヤル、ケンブリッジのコルブス・クリスティ・カレッジ、オックスフォードのソマーヴィルの建物、バーミンガム大学の鉱学・冶金学科研究所など、イギリス国内の多くの重要な建築プロジェクトに参画しました。さらに、その活動は国際的な規模へと拡大し、現在では世界的な設計・エンジニアリング会社として、ポンピドゥー・センター、関西国際空港ターミナルビル、30セント・メリー・アクス、北京国家体育場など、世界中のランドマーク的建築物の構造設計を手がけています。

アラップの遺産

サー・オヴ・アラップは、単なる構造技術者ではありませんでした。彼は建築家との緊密な協働を通して、構造設計の可能性を大きく広げ、建築デザインに新しい次元をもたらした人物です。彼の革新的な設計思想と、多様な専門家による協働体制の確立は、現代の建築業界に大きな影響を与え続けており、彼の名は、建築史に永遠に刻まれるでしょう。アラップ・アソシエイツの設立は、構造エンジニアリングにおける企業文化と組織運営の新しいモデルを提示し、世界中のエンジニアリング企業に大きな影響を与えました。彼の功績は、技術的な側面だけでなく、組織運営や人材育成の面にも及ぶ、真に多面的なものです。

参考文献

秀逸建築家シリーズ 10選 アラップ・アソシエイツ 、シグマユニオン、1995年
斉藤公男『空間 構造 物語-ストラクチュアル・デザインのゆくえ」彰国社　2003年12月

もう一度検索