オーガスタン時代

オーガスタン時代

オーガスタン時代は、イギリス文学および文化史において、おおよそ1660年の王政復古期から18世紀前半の初期ハノーヴァー朝にかけての期間を指します。この時期は、イギリスが独自の文化を築き上げ、大きな発展を遂げた時代として特筆されます。ジョージアン時代とも一部重なるこの時期は、政治的にも議会制度が確立され、国としての自信が高まった背景があります。

名称の由来

「オーガスタン時代」という名称は、ローマ帝国のアウグストゥス帝（英語名Augustus）の治世が文化的に繁栄した時代と、当時のイギリスの状況を重ね合わせて付けられました。特に、この時代の国王であるジョージ2世のミドルネーム「オーガスタス」にちなむとも言われています。「ジョージアン時代」も同様に、ジョージ1世やジョージ2世といったハノーヴァー朝の国王たちの名前に由来します。大陸から迎えられたこれらの国王たちの存在は、それまでのフランスの影響から脱却し、イギリス独自の道を歩む意識を強化しました。名誉革命を経て、国王の権力が抑制され、議会が主体となる政治体制への移行が進む中で、国民の間にはフランスと比肩する国家へと成長したという自負が芽生えていったのです。

時代の特徴

この時代は、科学分野において目覚ましい進歩が見られました。アイザック・ニュートンのような偉大な科学者が登場し、彼らの発見は世界の理解を一変させました。王立協会（ロイヤル・ソサエティ）のような学術機関の活動も活発になり、イギリスの科学水準は飛躍的に向上しました。しかし、文学、音楽、芸術といった分野においては、当時のイギリスはまだフランスやイタリアといった大陸諸国に追いついていないと見なされることもありました。

一方で、この時代は海外文化に対する旺盛な好奇心も特徴的です。邸宅に外国の物品を飾ることが流行し、東洋との貿易が盛んになるにつれて、中国風の装飾やデザインを取り入れた「シノワズリ（chinoiserie）」が一時的なブームとなりました。このような後進国ゆえの貪欲なまでの知的好奇心は、後の大英帝国の海外膨張の一因ともなったと言われています。

この時代に活躍した主な文化人

オーガスタン時代には、様々な分野で傑出した人物が輩出されました。

ウィリアム・ホガース (1697-1764): 版画家・画家。『当世風の結婚』や『放蕩息子一代記』といった風刺的な連作版画で、当時の社会や人間の姿を鋭く描き出しました。
ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル (1685-1759): 作曲家。ドイツ生まれですが、後にイギリスに帰化しました。『水上の音楽』やオペラ『リナルド』などで知られ、特にオラトリオ『メサイア』は現在でも広く愛されています。
ダニエル・デフォー (1660-1731): 作家。『ロビンソン・クルーソー』は、冒険小説の古典として世界中で読まれ続けています。
ジョナサン・スウィフト (1667-1745): 作家、聖職者。『ガリヴァー旅行記』は、鋭い社会批判と風刺に満ちた傑作として知られています。
アイザック・ニュートン (1642-1727): 物理学者、数学者、天文学者。『自然哲学の数学的諸原理（プリンキピア）』を著し、万有引力の法則や運動の法則を体系化するなど、近代科学の基礎を築きました。
ウィリアム・ハーシェル (1738-1822): 天文学者。ハノーファー出身ですが、イギリスに移住しました。天王星の発見や赤外線放射の発見などで、天文学史に大きな足跡を残しました。

オーガスタン時代は、このように科学、文学、芸術など多岐にわたる分野で重要な発展が見られ、後のイギリス文化の礎が築かれた、歴史上非常に意義深い時期と言えるでしょう。

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