オーガスト・ダーレス

オーガスト・ダーレス：多才な作家とクトゥルフ神話の守護者

オーガスト・ダーレス(1909-1971)は、アメリカ合衆国ウィスコンシン州出身の小説家、SF作家、推理作家、ホラー作家、そして出版人として知られる、20世紀を代表する多作家の一人です。ウィスコンシン大学で英米文学を学んだ彼は、17歳の時に怪奇小説専門誌『ウィアード・テイルズ』に作品を発表し、華々しいデビューを飾りました。200編近い作品を残し、故郷ウィスコンシンを舞台にした地方小説や、シャーロック・ホームズを彷彿とさせる名探偵ソーラー・ポンズを主人公とする推理小説シリーズでも高い評価を得ています。

ラヴクラフトとの交流とクトゥルフ神話の隆盛

ダーレスはデビューの翌年、ホラー小説の巨匠ハワード・フィリップス・ラヴクラフトと出会い、文通を通して生涯にわたる親交を結びました。ラヴクラフトの助言を受けながら創作活動を行い、『風に乗りて歩むもの』などの、後に「クトゥルフ神話」として知られる作品を発表。ラヴクラフトから後輩作家であるロバート・ブロックの指導を任されるなど、絶大な信頼を得ていました。

1939年には、ドナルド・ワンドレイと共に出版社「アーカム・ハウス」を設立。当初は生前に不遇だったラヴクラフトの作品集出版を主目的としていましたが、フリッツ・ライバーやレイ・ブラッドベリといった著名な作家たちがアーカムハウスからデビューを果たすなど、怪奇幻想文学の発展に大きく貢献しました。ブラッドベリはダーレスを「僕の人生を変えてくれた人物」と回想し、ラムジー・キャンベルも「ただの師ではなく、ずっと巨大な存在だった」と語っています。コリン・ウィルソンは、ダーレスの勧めでクトゥルフ神話作品を執筆するようになり、「ダーレスはラヴクラフト以上に重要な存在だったのではないか」とまで評価しています。

クトゥルフ神話体系化への貢献と批判

ダーレスは、ラヴクラフトの遺稿をまとめ、クトゥルフ神話を体系化する活動で知られています。ラヴクラフトのメモを基に新作を執筆し、ラヴクラフトとの共著として発表するなど、神話を発展させる役割を果たしました。埋もれていた可能性もあったラヴクラフトの作品群を世に知らしめ、新たな作家たちの神話世界への参入を容易にした点は、ダーレスの大きな功績として評価されています。

しかし、一方でダーレスの活動には批判もあります。クトゥルフ神話に善悪二元論や四大元素といった、ラヴクラフト作品の本質とは異なる要素を付加したことで、コズミック・ホラーとしての作品の独自性を損ねたと指摘する声や、旧支配者と旧神の対立構図をラヴクラフトが提唱したかのように捏造したという批判もありました。近年では研究が進み、これらの批判の多くは否定されていますが、1947年にカール・H・トンプソンが発表した作品において、ミスカトニック大学やネクロノミコンといった要素が勝手に使用されたことに対し、ダーレスとワンドレイが抗議文を送ったという事実も、作家の神話体系への新規参入を制限する行為として批判されています。

シャーロキアンとしての顔と多様な作品群

ダーレスはホラー作家として有名ですが、熱心なシャーロキアンでもあり、ベイカー・ストリート・イレギュラーズの古参メンバーでした。シャーロック・ホームズのパロディ作品である「ソーラー・ポンズ」シリーズを発表し、高い評価を得ています。このシリーズは、数あるホームズ・パロディの中でも特に傑作として挙げられることが多いです。

彼の作品は、クトゥルフ神話作品やソーラー・ポンズシリーズ以外にも、地方小説、怪奇小説、SF小説など多岐に渡ります。「ペック判事もの」と呼ばれる長編ミステリシリーズや、「シュルズベリイ博士」シリーズといった連作短編も発表しています。ダーレスの多様な作品群は、彼の豊かな想像力と卓越した筆力を物語っています。

死後も続く影響

1971年、心臓発作のため死去。彼の死は、幻想文学界に大きな衝撃を与えました。英国幻想文学協会は、ダーレスの功績を称え、1972年にオーガスト・ダーレス賞（後に英国幻想文学大賞と改称）を設立しました。切手収集家でもあったダーレスは、自ら肖像となった切手を制作し、作品の宣伝に用いたという逸話も残っています。

オーガスト・ダーレスは、作家、出版人、そして幻想文学の守護者として、20世紀の文学史に大きな足跡を残しました。彼の作品は、現在でも世界中の読者に愛され、その影響は現代の幻想文学にまで及んでいます。 彼の多様な作品群と、クトゥルフ神話への貢献は、これからも語り継がれていくでしょう。

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