ネクロノミコン

ネクロノミコン：クトゥルフ神話の根幹を成す禁断の書物

『ネクロノミコン』（Necronomicon、邦訳題：死霊秘法）は、ホラー作家H・P・ラヴクラフトが創作したクトゥルフ神話において中心的な役割を担う架空の魔道書です。ラヴクラフトの作品に登場するだけでなく、クトゥルフ神話を継承した多くの作家や作品にも影響を与え、その存在感は絶大です。

ネクロノミコンの起源と内容

この架空の魔道書は、狂えるアラビア人詩人アブドル・アルハズラット（表記揺れあり）が730年頃ダマスカスで著したとされています。原題はアラビア語で『アル・アジフ』（Al Azif）で、後にギリシャ語に翻訳された際に『ネクロノミコン』（死者の掟の表象）と名付けられました。

ネクロノミコンの内容は、ラヴクラフトの作品を通して断片的にしか明かされていません。初期の作品では、死者の儀式や呪文に関する記述が中心でしたが、次第にクトゥルフ神話における邪神や異次元存在に関する記述へと比重が移っていきました。その内容は、読む者に狂気を誘うとされ、禁書として扱われています。

ラヴクラフトは、ネクロノミコンの起源をアラビアに設定しつつ、タイトルをギリシャ語とした点について、古代ギリシャの天文学者プトレマイオスの著書『アルマゲスト』の伝来になぞらえて説明しています。これは、失われた古代の知識という雰囲気を醸成するための巧妙な演出と言えるでしょう。

ネクロノミコンの歴史と写本

ラヴクラフトは、自らの創作した「ネクロノミコンの歴史」の中で、この魔道書の様々な写本や翻訳版について言及しています。アラビア語原典であるアル・アジフから、ギリシャ語版、ラテン語版、さらには英語版へと翻訳・写本が繰り返され、その過程で欠損や改変が生じています。

ラヴクラフト作品に登場するネクロノミコンは、ミスカトニック大学図書館を始めとする複数の図書館に所蔵されているとされ、その存在は非常に稀少で、かつ危険なものとして描かれています。

ネクロノミコンと他の作品

ラヴクラフト作品以外でも、ネクロノミコンはクトゥルフ神話を取り扱う多くの作品で重要なアイテムとして登場します。例えば、クラーク・アシュトン・スミスは自身の作品でアラビア語版ネクロノミコンを登場させ、ロバート・E・ハワードもネクロノミコンに言及するなど、クトゥルフ神話におけるネクロノミコンの影響は多大なものです。

ネクロノミコンの再現と解釈

ラヴクラフト存命中から、ネクロノミコンを再現しようとする試みがありましたが、ラヴクラフト自身はそんな大著を執筆する時間がないと述べています。しかし、その後も多くのファンが「ネクロノミコン」を名乗る書籍を出版しています。これらの書籍は、ラヴクラフトの作品を基にした創作物であり、オリジナルのネクロノミコンとは異なります。

また、スイスのシュールレアリズム画家H・R・ギーガーが出版した作品集のタイトルにも「ネクロノミコン」が使われています。この作品集に収録されている絵画は、後の映画『エイリアン』のデザインに影響を与えたと言われています。

まとめ

ネクロノミコンは、単なる架空の魔道書ではありません。クトゥルフ神話の根幹を成す存在であり、多くの作家や芸術家にインスピレーションを与え、現代でもその影響は色濃く残っています。禁書として、そして神秘的な書物として、ネクロノミコンはこれからも人々の想像力を掻き立て続けることでしょう。 ラヴクラフトの作品を通してその断片的な情報に触れることで、その謎めいた魅力の一端を垣間見ることができるでしょう。ネクロノミコンは、クトゥルフ神話という世界観を理解する上で欠かせない要素であり、その神秘的な存在感は、読者に深い恐怖と畏怖を与え続けるのです。

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