オーガスト・ベルモント2世

オーガスト・ベルモント2世：金融、地下鉄、そして競馬界の巨匠

オーガスト・ベルモント2世 (1853年-1924年) は、アメリカ合衆国における20世紀初頭の金融界、交通事業、そして競馬界において、重要な役割を果たした人物です。彼の生涯は、莫大な富の獲得、大規模なインフラ事業への投資、そしてサラブレッド競走馬への情熱という、三つの主要な柱によって支えられていました。

華麗なる出自と教育

1853年、ニューヨーク市で裕福な金融家オーガスト・ベルモント1世を父に生まれ、幼少期から恵まれた環境の中で育ちました。名門セントマークス学校を卒業後、ハーバード大学に進学し、そこで学問を修めました。卒業後は、家業である金融会社「オーガスト・ベルモント・アンド・コーポレーション」に入社し、1890年に父が亡くなると、その跡を継いで社長に就任しました。

ニューヨーク市地下鉄建設への貢献

ベルモント2世は、単なる金融家としてだけでなく、ニューヨーク市のインフラ整備にも大きく貢献しました。1902年には、インターボロー・ラピッド・トランジット（IRT）を設立し、初期のニューヨーク市地下鉄路線の建設と運営を主導しました。彼はIRTの社長、そして後に会長を務め、地下鉄の発展に尽力しました。また、世界で唯一の自家用地下鉄専用車「ミネオラ」を所有していたことでも知られています。この車両は現在、コネチカット州の博物館に保存されています。

ケープコッド運河建設への参画と挫折

ベルモント2世の事業活動は、ニューヨーク市に留まりませんでした。彼はマサチューセッツ州のケープコッド運河建設にも参画し、会社を設立して事業を指揮しました。1914年に開通したものの、高額な通行料、狭い幅員、そして危険な潮流など、様々な問題に直面し、期待された経済効果は得られず、1928年にはアメリカ政府に買収されました。

第一次世界大戦と軍務

第一次世界大戦勃発時には、64歳という高齢ながら陸軍少佐として従軍しました。フランスに派遣され、アメリカ外征軍（AEF）の補給業務に携わり、スペイン政府との交渉などを通して、軍需品の調達に尽力しました。戦後にはアメリカに帰国し、陸軍を退役しました。彼の息子たちもまた、この戦争に参加しており、家族ぐるみで国家に貢献したことがわかります。

競馬への情熱とベルモントパーク

ベルモント2世は、父と同じく熱心なサラブレッド競馬の愛好家でした。父から引き継いだナーサリースタッドでサラブレッドの生産を行い、数々の名馬を輩出しました。その代表例として、マンノウォー、ベルデイムなど、アメリカ競馬史に名を刻む名馬が挙げられます。彼は、サラトガ競馬場の活性化にも貢献し、アメリカジョッキークラブの初代会長、ニューヨーク競馬協会の委員長などを歴任しました。

1905年には、ニューヨーク州ロングアイランドにベルモントパーク競馬場を建設しました。この競馬場は、後にアメリカ三冠競走の一つとなるベルモントステークスの開催地となり、アメリカ競馬の発展に大きく貢献しました。ベルモントステークスは、彼の父にちなんで名付けられたものです。

彼は、アメリカだけでなくイギリスやフランスにも競走馬を送り込み、国際的な競馬事業にも携わりました。フランスのヴィレール牧場では、数々の活躍馬を生産しました。しかし、第一次世界大戦により多くの馬を売却せざるを得ない状況にも置かれましたが、終戦後に自らの生産馬であるマンノウォーのベルモントステークス優勝を目の当たりにしました。

晩年と遺産

晩年はニューヨーク州ノースバビロンで過ごし、1924年にニューヨーク市で亡くなりました。彼の死後、妻エレノアは保有していた土地の大半を売却しましたが、一部の土地は後にベルモントレイク州立公園として整備され、現在も人々に親しまれています。

2013年には、アメリカ競馬名誉の殿堂博物館に殿堂入りを果たし、その功績は現在も高く評価されています。オーガスト・ベルモント2世は、金融、交通、そして競馬という、一見無関係に見える分野で卓越した成功を収め、アメリカ社会に多大な貢献をした人物として、歴史にその名を刻んでいます。

もう一度検索