オーギュスタ・オルメス

オーギュスタ・オルメス（Augusta Mary Anne Holmès, 1847年 12月18日 - 1903年 1月28日）は、アイルランドにルーツを持つフランスの作曲家である。彼女は、リヒャルト・ワグナーに深く傾倒しており、また、当時の社会において女性が公に作曲家として活動することが困難であったため、初期には「ヘルマン・ゼンタ」という男性的な偽名を用いて作品を発表した。彼女の創作は主に舞台作品や声楽分野に及び、自作の歌曲、オラトリオ、合唱を伴う交響曲、そしてオペラでは、ワグナーと同様に自身で台本も手がけるという、多才ぶりを示した。今日のクラシック音楽史においてはあまり顧みられることのない存在となっているが、同時代の著名な作曲家クロード・ドビュッシーは、オルメスの訃報に際して筆を執り、その音楽を「健康的」と評している。また、イギリスの女性作曲家エセル・スマイスは、晩年のオルメスを表敬訪問した記録を残している。

生涯

オルメスは1847年、パリに生まれた。両親はともにアイルランド出身である。父ダルキース・ホームズは1820年からパリに定住していた。ただし、名付け親であった詩人アルフレッド・ド・ヴィニーが実父であるという根拠のない噂も囁かれた。幼少期をヴェルサイユで過ごし、早くから音楽、詩、絵画の分野で才能を示した。特に母親は音楽の道を強く反対したとされ、絶望のあまり自殺を図ったとする真偽不明の逸話も伝えられている。1857年に母親が没した後、父親は音楽の学習を勧めた。当時のパリ音楽院は女性の入学を受け入れていなかったため、オルメスは個人的な師事を受けながら、ピアノ、オルガン、そして音楽理論を学んでいった。若くしてフランツ・リストに自作曲を見せる機会を得、その才能を激励されている。1876年からは、セザール・フランクに作曲を師事し、本格的な研鑽を積んだ。

普仏戦争後の1871年にはフランス国籍を取得し、姓にアクサンテギュ（´）を加えて Holmès と表記するようになった。作曲家としての評価は、1882年の交響詩『アイルランド』、翌1883年の『ポーランド』といった作品によって確立される。これらの作品は、抑圧された民族が苦難を経て勝利に至るという、強い民族主義的なメッセージを内包していた。1889年のパリ万国博覧会に際しては、記念音楽の作曲を委嘱され、革命百周年を讃える大規模な合唱と管弦楽のための『勝利のオード』が、同年9月11日に産業宮で初演された。この作品は、総勢1200人もの出演者を要する文字通りの大作であった。

オルメスは生涯結婚を選ばなかったが、既婚の詩人カテュール・マンデスと約20年間にわたり共同生活を送り、彼との間に5人の子どもをもうけた。オルメスもマンデスも共にワグナーの熱烈な信奉者であったことが知られている。また、二人の間の娘たちは、後に同じくワグネリアンであった画家ルノアールのモデルを務めたという記録も残されている。しかし、1885年にはマンデスとの関係を解消し、子どもたちはマンデスの許で育てられることになった。故国アイルランドに関連する人々とも交流を持ち、作家ジョージ・ムーアや政治活動家モード・ゴンと親交を結んだ。特にゴンは、1897年にダブリンで交響詩『アイルランド』の改訂版が演奏される際に助力したと伝えられる。

オペラ作品では、1895年にパリ・オペラ座で上演された『黒い山』（舞台はモンテネグロ）が唯一公開されたものとなった。しかし、この作品は残念ながら成功には至らず、わずか13回の公演で打ち切りとなった。晩年の1902年にはカトリックに改宗している。そして、1903年 1月28日、パリにて波乱に富んだ生涯を閉じた。当初はパリ市内のサン＝ルイ墓地に葬られたが、後にヴェルサイユへ改葬され、友人であったモード・ゴンによって記念碑が建立された。

オルメスは自身の所有する大量の楽譜コレクションをパリ音楽院に遺贈した。また、彼女の自筆譜などの遺稿は、娘たちによってフランス国立図書館に寄贈され、現在に伝えられている。

作品と評価

生涯にわたり、オルメスは12曲の交響詩、4曲の歌劇、そして100曲を超える歌曲など、膨大な数の作品を生み出した。彼女の交響詩の中でも、特に『アイルランド』や『ポーランド』は、明確な政治的メッセージを持つ標題音楽として注目され、かつてはフランス国内のオーケストラによって比較的頻繁に演奏されていた時期もあった。しかし、クリスマス・キャロルとして知られる「三人の天使」を含む一部の歌曲を除いて、今日の演奏機会は極めて限られている状況である。

人間関係

オルメスと、彼女を取り巻く男性作曲家たちとの関係は、時にゴシップ的な関心を引いてきた。同時代の作曲家カミーユ・サン＝サーンスは、彼女の才能と個性を「過激な女性」と評したことが記録されている。また、サン＝サーンスがオルメスに求婚した、あるいは自身の交響詩の霊感源とした、といった逸話も伝えられている。さらに、師であるセザール・フランクの代表作とされる《ピアノ五重奏曲》には、彼のオルメスに対する秘めた感情が込められているとする解釈が存在し、フランクの最晩年の作品《3つのコラール》の第2番はオルメスに献呈されている。しかし、これらの事実をもってフランクとオルメスが師弟関係を超えた親密な関係であったとする確証はない。

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