オーク・リッジ (テネシー州)

オークリッジ：秘密都市から科学の街へ

オークリッジは、アメリカ合衆国テネシー州アンダーソン郡に位置する都市で、一部はローン郡にも跨っています。ノックスビルの西約40キロメートルに位置し、2020年の国勢調査では人口31,402人を数えます。この街は、第二次世界大戦中の1942年に、連邦政府の極秘プロジェクト「マンハッタン計画」の拠点として設立されました。

ニックネームと現在の役割

核兵器開発の極秘施設であったことから、「アトミック・シティ（原爆都市・核兵器都市）」、「シークレット・シティ（秘密都市）」、「リッジ」、「シティ・ビハインド・ザ・フェンス（塀の向こうの町）」など、多くのニックネームで呼ばれていました。現在もオークリッジ国立研究所は、町の経済や文化において重要な役割を担っています。

歴史

先史時代から入植まで

この地域の歴史は古く、ウッドランド期（紀元前1000年～西暦1000年頃）にはパレオ・インディアンが居住していました。クリンチ渓谷周辺では、ウッドランド期からミシシッピ文化期（1000年～1600年頃）にかけての遺跡が発見されています。18世紀後期まで、この地はチェロキー族が狩猟場として利用していましたが、ヨーロッパやアメリカの探検家・入植者が来るまでは、広大な無人の地でした。

19世紀の農村開発

19世紀には、この地域はエッジムーア、エルザ、イースト・フォーク、ホィート、ロバーツヴィル、ベセル、スカーボロといった農村に分割され、発展を遂げました。1790年代後期に初めて入植した人々は、チェロキー族との条約を通じて土地を譲り受け、現在のアンダーソン郡の基礎を築きました。

ジョン・ヘンドリックスの予言

興味深い逸話として、ジョン・ヘンドリックス（1865年～1915年）という神秘主義に関心を持つ風変わりな住人がいました。彼は、オークリッジの建設が始まる40年も前に、その創立を予言していたと伝えられています。娘や妻、残された家族を次々と亡くした彼は、信心深くなり、近隣住民に見た幻について語るようになりました。住民たちは彼を狂人扱いし、収容所に入れることになりますが、彼の語った幻は、彼の死後28年後の町の様子や生産施設を驚くほど正確に描写していたとされています。

マンハッタン計画とオークリッジの誕生

土地の選定と住民の立ち退き

1942年10月、アメリカ陸軍工兵司令部はマンハッタン計画のためにこの地を利用し始めました。アンダーソン郡の住民の多くは、テネシー川流域開発公社がノリス・ダムのために土地を買収した時とは異なり、突然の立ち退きを宣告されました。多くの住民は、帰宅するとドアに貼られた立ち退き警告で初めて事態を知り、ほとんどが6週間、中には2週間しか猶予を与えられず、補償なしに追い出された人もいました。1943年3月までに、マンハッタン計画の前身がこの地に移転し、フェンスや検問所が建設されました。

秘密都市の建設

1942年、アメリカ合衆国連邦政府はマンハッタン計画のためにこの地を選定しました。軍の責任者であるレスリー・グローヴス少将は、人口が少なく土地を安価で買収できること、ハイウェイと鉄道の便が良いこと、ノリスダムから水と電力を供給できることなどを理由にこの地を気に入りました。また、谷が線状でいくつかの尾根によって分断されていたため、工場の事故による爆発の影響を最小限に抑えることができると考えました。

町の発展と差別

人口は1942年の約3,000人から1945年には75,000人に増加しましたが、この場所と人口の少なさは、計画の秘密を保持する上で都合が良かったのです。ウラン濃縮施設K-25は、当時世界最大の建物でした。従業員の提案から、ブラック・オーク・リッジ沿いに調停所があったこと、また田舎の響きが「周囲からの興味を最小限に抑えられる」ことから、「オークリッジ」という名前が採用されました。1949年まで、この名前は公式には認定されず、クリントン・エンジニア・ワークス（CEW）のみで使用されていました。

町は警備塔と7か所のゲートがあるフェンスで囲まれ、全ての従業員がバッジを着用していました。K-25、S-50、Y-12の施設は、核分裂性物質同位体ウラン235を、ほぼ完全な同位体ウラン238からなる天然ウランから分離するために建設されました。Y-12の施設建設中には、銅不足のため、財務省から14,700トンの銀塊を借りて電磁石コイルの導体に代用せざるを得ませんでした。

マンハッタン計画のために多くの従業員を雇用したため、軍は渓谷の東端に従業員のための居住区を計画しました。建築会社スキッドモア・オーウィングズ・アンド・メリル（SOM）が町と住宅の設計を担当しました。SOMと提携していたジョン・O・メリルは、この地の秘密の建設のためにテネシー州に転居し、300マイルの道路、55マイルの鉄道線路、10軒の学校、7軒の劇場、17軒のレストランと喫茶店、13軒のスーパーマーケットなどを建設しました。9,400冊の蔵書を持つ図書館、オークリッジ交響楽団、スポーツ施設、17宗派の教会、フラー・ブラシ・カンパニーの営業も新しい町と75,000人の住民に対応しました。

しかし、オークリッジは連邦政府によって差別地域として発展させられました。黒人の住民は、ギャンブル渓谷と呼ばれる地域にのみ住み、初等教育は完全に差別化されていました。黒人の子供はスカーボロ小学校にのみ通うことができ、オークリッジ高等学校は黒人を受け入れていませんでした。1955年秋にオークリッジ高等学校が差別を撤廃するまで、スカーボロ高等学校での授業が続けられました。

第二次世界大戦後

第二次世界大戦後、オークリッジはアメリカ原子力委員会（AEC）の支配下から民間による統制へと移行しました。1959年には自治体となり、連邦政府の直接支配から解放されました。戦時中に爆弾製造に使用された大規模施設4つのうち、3つは現在も残っています。

現在のオークリッジ

現在、オークリッジでは、アメリカ合衆国エネルギー省（DOE）が原子力と高度技術の研究を行っており、安全保障を担っています。毎年6月から9月には、かつての施設の一部が一般公開され、見学ツアーが人気を集めています。

科学電力博物館では、オークリッジの科学遺産が研究されています。また、オークリッジ国立研究所のスーパーコンピュータ「Jaguar」は、2010年10月まで世界最速のコンピュータでした。

著名な出身者

オークリッジは、多くの著名な人物を輩出しています。

E・リリー・アンダーソン（テネシー最高裁判所裁判官）
ジェニファー・アッジ（元WNBA選手、オリンピック金メダリスト）
バウエル・B・ベル3世将官（アメリカ陸軍、ヨーロッパ、NATOの統合部隊の元将軍）
マンソン・ベネディクト（原子力技術の先駆者）
ミーガン・フォックス（女優）
カイフ・リー/李開復（Google幹部）
ゴア・ヴァービンスキー（映画監督）
ユージン・ウィグナー（ノーベル賞受賞物理学者）

その他にも、多数の科学者、政治家、スポーツ選手、芸術家などがオークリッジから輩出されています。

名所

オークリッジ国立研究所
テネシー大学樹木園
東部テネシー・テクノロジー・パーク
チャペル・オン・ザ・ヒル合同教会
チルドレンズ・ミュージアム
アメリカ合衆国エネルギー省科学技術局案内所
科学電力博物館
オーク・リッジ劇場

姉妹都市

ロシア オブニンスク
茨城県那珂市

オークリッジは、その特異な歴史と、科学研究の中心地としての役割から、アメリカのみならず世界的に注目される都市です。

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