オーストラリア先住民

オーストラリア先住民（Indigenous Australians）とは、広大なオーストラリア大陸とその周辺に位置する島々に、ヨーロッパからの入植が始まるはるか以前から代々居住してきた人々の総称です。具体的には、大陸本土にルーツを持つアボリジナル（Aboriginal people）と、大陸北部とパプアニューギニアの間にあるトレス海峡諸島の住民であるトレス海峡諸島民（Torres Strait Islander people）の二つの主要な集団を含みます。ただし、文脈によっては「アボリジナル」という言葉が、トレス海峡諸島民を含まない大陸本土の先住民のみを指す場合と、先住民全体を指す場合があります。この用語の使い分けには注意が必要です。

オーストラリア大陸に人類が足跡を残した最初の時期については、現在も活発な研究が続けられています。考古学的な発見や科学的な年代測定手法により、人類がこの大陸に到達したのは非常に古い時代であったことが示されています。例えば、現在知られている最古の確実な人類の痕跡としては、ニューサウスウェールズ州のムンゴ湖畔で発見された、約4万年前のものと推定されるムンゴマンおよびムンゴレディの骨が見つかっています。しかし、先住民の直接の祖先がいつ頃この地に渡来したのかについては、様々な学説が存在します。熱ルミネッセンス法などの手法を用いた年代測定では、さらに遡る6万年から5万年前、あるいは12万年以上前という推定値も示されており、今後の研究によるさらなる解明が待たれています。彼らは、おそらく海面が低かった氷河期に、ニューギニア島を経由して渡来したと考えられています。

オーストラリア先住民は、決して均質な一つの文化を持つ人々ではありませんでした。大陸全土にわたる多様な環境、例えば砂漠、熱帯雨林、沿岸部、内陸のステップなど、それぞれの地域に適応しながら、数百もの異なる民族集団が独立したコミュニティを形成していました。これらの集団は、それぞれ独自の社会構造、文化的な慣習、神話、芸術、そして言語を発展させてきました。ヨーロッパ人の入植が始まった頃には、推定で250種類以上の言語が存在していたとされています。しかし、植民地化政策や社会の変化に伴い、多くの言語が失われました。現在も話されている言語は120から145種類程度にまで減少し、その大部分が話者数の少ない「危機言語」となっています。日常的に多くの人々に話され、将来的な存続が比較的安泰視されている言語は、わずか十数種類に過ぎないのが現状です。現代では、多くの先住民が英語を主要な言語として話しますが、彼らのコミュニティ内では、伝統的な言語の影響を受けたオーストラリア・アボリジナル英語が広く用いられています。この独自の英語は、元の先住民言語の音や文法の特徴を残しており、彼らの文化的なアイデンティティの一部となっています。

ヨーロッパ人の入植開始時におけるオーストラリア先住民の正確な人口を知ることは困難ですが、研究者たちの推計では、おおよそ30万人から100万人程度であったと見られています。彼らの居住分布は、現在のオーストラリアの人口分布と類似しており、豊かな資源を持つマレー川流域を中心とする大陸南東部に最も多くの人々が暮らしていました。植民地化以降、先住民は人口の激減や伝統的な生活様式の破壊など、過酷な経験を強いられました。しかし、現代では彼らの権利回復や文化復興に向けた取り組みが進められています。その一環として、1995年にはオーストラリアン・アボリジナルの旗とトレス海峡諸島民の旗が、国の公式の旗として正式に承認されました。これらの旗は、それぞれの民族集団の歴史、文化、そして未来への希望を象徴しており、オーストラリア社会全体における先住民の存在感を示すものとなっています。

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