オーストロアジア語族

オーストロアジア語族：東南アジアからインド東部への言語の広がり

オーストロアジア語族は、東南アジア、インド東部、バングラデシュなどに分布する言語のまとまりです。ベトナム語、クメール語、モン語など、古くから記録があり、現在も多くの話者を持つ言語を含みますが、多くの言語は比較的小規模な少数民族によって話されているのが現状です。ベトナム語はベトナム、クメール語はカンボジア、サンタリ語はインドのジャールカンド州で公用語として使用されています。

伝統的には、東南アジアに分布するモン・クメール語派と、インドに分布するムンダ語派に分類されてきました。これまでに記録されている言語数は168にも及びます（モン・クメール語派147、ムンダ語派21）。しかし、この分類は必ずしも確立されたものではなく、モン・クメール語派とムンダ語派をそれぞれ独立した語族とみなす場合もあります。また、モン・クメール語派内部のまとまりについても異論があります。

オーストロアジア語族の系統分類：未解明な部分も多い

オーストロアジア語族全体に共通する特徴は少ないものの、古くは接頭辞や接中辞が文法や派生機能を担っていたと考えられています。この点において、オーストロネシア[[語族]]と類似性が見られることから、両者をまとめて「オーストリック[[大[[語族]]]]」とする仮説も存在します。

アイヌ語との関連性についても、仮説が提唱されています。しかし、従来の語源学的な手法ではなく、統計的な計算言語学的な手法を用いた研究（Jäger 2015）では肯定的な結果が得られたとされますが、この手法には反論も多く、また、同研究がアイヌ語を単独でオーストロアジア語族と関連づけたのではなく、アイヌ語と日琉語族を合わせてオーストロアジア語族と同源であるとの仮説を支持する結果を得たという点に留意すべきです。

下位分類については、依然として諸説があり、語彙統計学的に明確な証拠が得られていないのが現状です。Paul Sidwell (2009) は、Roger Blench の考え方を引用し、モン・クメール諸語という括りを設けずに、モン諸語、クメール語、Vietic諸語などをムンダ語派と並列的に扱う分類体系を採用しています。Glottolog 4.2.1 も Sidwell (2009) の分類体系を踏襲しています。

オーストロアジア語族の主要な語派と言語

オーストロアジア語族には、大きく分けて以下の語派と代表的な言語が含まれます。分類は諸説あり、括弧内は、他の分類体系における位置づけを示す場合があります。

ベト・ムオン語派（ベトナム・アンナン語群） (モン・クメール語派に含めることもある)
ベトナム語
チュット語
ムオン語
トー語

モン・クメール語派
東部語群：クメール語、ペアール語、サオチ語、バナール語、スティエン語、カトゥ語、クイ語
北部語群：カシ語、パラウン語、ワ語、クム語、チン語
南部語群：モン語、アスリ諸語（ジャハイ語、セノイ語、南アスリ語など）、ニコバル諸語（カール語、チョウラ語、テレッサ語、ショム・ペン語など）

ムンダ語派
北部語群：サンタル語、ムンダ語、ホー語、ブーミジ語、コルク語、コルワ語、アスル語、ビルホル語
南部語群：ソーラ語、ボンド語、ガダバ語、パレンガ語
中央語群：カリアー語、ジュアング語

オーストロアジア語族の歴史と遺伝子

オーストロアジア語族を話す人々の遺伝子には、Y染色体ハプログループO1b1との関連性が示唆されています。このハプログループはオーストロアジア系民族に見られ、ニコバル諸島では100%の割合を占めます。O1b1は紀元前2500年以降に東南アジア、南アジアへ広まったと考えられています。

オーストロアジア語族は、その地理的広がりや言語的多様性、複雑な分類体系などから、多くの謎が残されています。今後の研究によって、その歴史や系統関係がより明らかになることが期待されます。

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