カイサリア・マリティマ

カエサリア・マリティマ、別名「海辺のカイサリア」は、その名の通り地中海に面した古代都市です。ヘロデ大王が紀元前25年頃に、既存の「ストラトンの塔」という小要塞を基盤に、大規模な都市と人工港湾を建設しました。その立地から、パレスティナ地域において重要な港として機能し、ユダヤ人、ギリシャ人など多民族が混在する場所となりました。

紀元前13年には市民が入植し、港湾の重要性からローマ帝国もこの地をユダヤ属州の首都としました。ローマ総督と軍隊が駐屯し、政治的にも重要な拠点となりました。新約聖書『使徒行伝』にも登場し、最初の異邦人キリスト教徒が誕生した地としても知られています。

しかし、この繁栄の裏で、フラウィウス・ヨセフスが著書で述べているように、ユダヤ人虐殺がユダヤ戦争の引き金となったという歴史もあります。ローマ時代には、コロシアムやカエサルに捧げられた神殿が存在し、その栄華を物語っています。皇帝ヴェスパシアヌスは、この都市を「Colonia Prima Flavia Augusta Caesarea」と命名しました。

130年代のバル・コクバの乱後、エルサレムが破壊されると、カエサリアはパレスティナ第一の都市となり、初期キリスト教の中心もエルサレムからこの地へと移りました。4世紀には歴史家エウセビオスがこの街の大司教を務め、オリゲネスも滞在し著作を著しています。このことから、当時のカエサリアが学術的にも重要な役割を果たしていたことが伺えます。

しかし、7世紀以降、ペルシア帝国やイスラム教徒の侵攻によって破壊を経験します。それでも都市は存続し、12世紀の十字軍時代には、十字軍によって植民都市として利用されました。その後もイスラム教徒とキリスト教徒の攻防の舞台となり、最終的には放棄され廃墟となりました。

現在、カエサリア・マリティマの周辺には、セドット・ヤム、ジスル・エッ・ザルカー、オール・アキバなどの都市が存在します。これらの都市は、カエサリアが辿ってきた歴史の断片を今に伝えていると言えるでしょう。カエサリアの遺跡は、歴史の複雑さと、都市の繁栄と衰退の物語を伝えています。

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