カエサル・バロニウス

カエサル・バロニウスの生涯と業績

カエサル・バロニウス（Caesar Baronius, 1538年10月31日 - 1607年6月30日）は、16世紀から17世紀にかけてのイタリアで活躍した枢機卿であり、歴史家です。彼は、カトリック教会の歴史を詳細に記述した『教会年代記』（Annales Ecclesiastici）の著者として知られています。

若年期と修道士への道

バロニウスは、当時ナポリ王国領であったソーラで生まれました。ヴェロリとナポリで人文主義教育と法学教育を受け、19歳の時にローマへと進学。法学を深く学ぶ中で、フィリッポ・ネリの説教に感銘を受け、修道士になることを志しました。ネリの勧めもあり、1558年には教会史についての講話を始めます。1561年に法学博士号を取得後、ネリが創設したオラトリオ会に正式に加入し、1564年には司祭に叙階されました。

教会史研究への取り組み

バロニウスが教会史の講話を始めた翌年、1559年には、プロテスタントの学者マティアス・フラキウスによる『マクデブルクの諸世紀教会史』第1巻が出版されました。これは、エウセビオス以来途絶えていた教会史の記述を、プロテスタント側から再開する試みであり、カトリック教会に大きな衝撃を与えました。カトリック側は、これに対抗するため、枢機卿アントニオ・カラッファがバロニウスにカトリックの立場に基づく教会史の執筆を要請しました。当初、バロニウスは躊躇しましたが、ネリの説得により、この大事業を引き受けることになりました。

『教会年代記』の執筆と課題

バロニウスの性格上、史料の収集と精査には徹底的に時間をかけたため、執筆作業は難航しました。また、彼自身も多忙であったことから、1588年にようやく『教会年代記』第1巻が刊行される運びとなりました。最終的に、彼の死によって12世紀までを扱った第12巻で未完となったものの、当時の状況を考慮すると、彼の単独での業績は非常に価値が高いと言えます。フラキウスの『マクデブルクの諸世紀教会史』も複数の執筆者による共同作業でありながら、13世紀までしか完成しなかったことからも、バロニウスの偉業が際立ちます。バロニウスは、事実関係に関して争いえないと判断した部分については、『マクデブルクの諸世紀教会史』からも引用を行っています。

枢機卿としての活躍とローマ教皇選挙

1593年、バロニウスは高齢のネリの後を継ぎ、オラトリオ会の総長に就任しました。1596年には枢機卿に任命され、翌年にはバチカン図書館の総責任者である枢機卿司書を兼任しました。1605年、クレメンス8世の死去に伴うコンクラーベでは、バロニウスは有力な教皇候補の一人と見なされ、一時、必要な票数を集めました。しかし、カトリック最大の国の一つであるスペインの代表が、バロニウスはスペイン国王の意向にそぐわないとして異議を唱え、巻き返しを図りました。これは、彼の著作がフランス寄りであると見なされたこと、および『教会年代記』の第11巻において、シチリア王国がウルバヌス2世から与えられた特権に関する文書を偽文書と判断したことが、スペインの不信を買ったためでした。スペインでは、バロニウスの著書が禁書扱いとされるほどでした。このため、コンクラーベはスペインとフランス双方に受け入れられる人物としてレオ11世を選出しました。レオ11世が急逝した後のコンクラーベでも、スペインが推すパウルス5世が教皇に選ばれました。バロニウスは、問題の記述はバチカン図書館などの所蔵資料に基づいた純粋な学術的探求の結果であると主張し、政治的意図を否定しましたが、それ以上の異議を唱えることはありませんでした。

晩年と死

高齢と、深夜にまで及ぶ学究活動が彼の健康状態を悪化させ、1607年に病のため亡くなりました。バロニウスの業績は、その後の歴史研究に大きな影響を与え、今日でも高く評価されています。

まとめ

カエサル・バロニウスは、カトリック教会の歴史を体系的に記述した『教会年代記』を著したことで知られる歴史家であり、枢機卿です。彼の研究は、今日の教会史研究の基礎を築く上で非常に重要な役割を果たしました。また、その学術的な厳密さと、教会への献身的な姿勢は、後世の研究者たちに大きな影響を与えました。

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