フィリッポ・ネリ

生涯

フィリッポ・ネリは、1515年にフィレンツェで生まれました。父は公証人、母は貴族の出身で、彼は4人兄弟の長男でした。幼少期に母を亡くし、ドミニコ会系の学校で教育を受けた後、17歳で伯父の養子となりました。しかし、商売を学ぶ中で人生の目的を模索し、モンテ・カッシーノの教会で祈りに生きることを決意します。18歳でローマに移り住み、家庭教師をしながら聖アウグスチノ修道会で学び、病院や救貧院での奉仕活動を開始しました。

祈りを中心とした生活を理想とするネリは、修道院での学業が祈りの時間を奪うと考え、修道院を離れてカタコンベで祈りと奉仕の生活を送ります。ただし、トマス・アクィナスの神学大全を学ぶことは怠りませんでした。1544年、聖セバスチャンのカタコンベで神秘的な体験をし、ここから本格的な宣教活動を始めます。当初は司祭になることを望まず、信徒のままで活動していましたが、聴罪司祭の勧めで1551年に司祭に叙階されました。

司祭としての活動

司祭となったネリは、オラトリオでの活動をさらに拡大しました。教会内の小祈祷所（オラトリオ）で集会を開き、郊外へのピクニックでは聖歌を歌い、説教をし、病院や救貧院での奉仕活動を続けました。これらの活動は、当時のプロテスタントの宗教改革に似ているとして、教皇庁から疑念を持たれ、迫害を受けることもありました。しかし、カルロ・ボッロメーオ枢機卿の支持を得て、1575年に教皇グレゴリオ13世からオラトリオ会が勅許されました。

オラトリオ会

オラトリオ会は修道会とは異なり、司祭と信徒がキリストへの愛徳によって結ばれた共同体です。重要な事項は全員の合意で決定され、修道会のような絶対服従の規則はありませんでした。ネリは、オラトリオ会で歌う聖歌を、高名な作曲家ジョヴァンニ・ダ・パレストリーナに依頼し、ここから聖歌の一形式であるオラトリオが生まれました。ネリはオラトリオ会の拡大を望みませんでしたが、自然発生的に各地に広がり、それぞれが独立して運営されるようになりました。

晩年と影響

晩年には、国際政治にも関与し、フランス国王アンリ4世の改宗問題で教皇庁に助言しました。5年にわたる交渉の末、アンリ4世の改宗が認められ、ナントの勅令の発布につながりました。1595年、79歳で亡くなるまで、祈りとミサに専念しました。

ネリの思想の特徴は、宣教活動を司祭と信徒の共同で行うこと、そして「喜び」を重視し、音楽や歌唱を取り入れたことです。彼の活動は、当時の退廃的なローマの若者たちにとって新鮮で、教会への関心を高めました。ネリは、貴族的な司祭のあり方に疑問を呈し、若者の中に飛び込む新しい形の聖職者像を作り上げました。一方で、告解の秘跡を積極的に推奨し、多くの人々に告解を聴く司祭として、枢機卿や教皇からも信頼を得ていました。彼のモットーは、「神への従順、神のみ旨への謙遜、神以外のすべてのものからの離脱」でした。

フィリッポ・ネリは、その革新的な宣教活動と、喜びを大切にする姿勢によって、カトリック教会に大きな影響を与えました。彼の創設したオラトリオ会は、現在も世界各地で活動を続けており、彼の精神は多くの人々に受け継がれています。

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