カオサイ・ギャラクシー

カオサイ・ギャラクシー（本名：スラ・セーンカム）は、1959年5月15日にタイで生まれたプロボクサーです。サウスポーのファイタータイプとして知られ、WBA世界スーパーフライ級の絶対王者として長きにわたり君臨しました。特にその左の強打は多くの対戦相手をマットに沈め、「タイのタイソン」という異名で世界中のボクシングファンに畏敬の念を抱かせました。

彼のボクシングキャリアは異色の始まりを持ちます。元々はタイの国技であるムエタイの選手でしたが、その卓越した強打を見抜いたマネージャーのニワット・ラオスワンナワットの勧めにより、1980年にボクシングへの転向を決意します。同年12月17日に行われたデビュー戦では、プロのリングで鮮烈な5回KO勝利を飾り、その潜在能力の高さを示しました。

キャリア初期には、タイ国内バンタム級王座への挑戦を経験しています。1981年7月29日、プロ7戦目で挑んだタイトルマッチでは、惜しくも10回判定負けを喫しました。これはカオサイにとって、ボクシング人生で唯一の黒星となりました。しかし、この敗戦から立ち直り、1982年1月25日に行われた同王座への再挑戦では、7回KO勝利で見事にタイトルを獲得。国内トップへの足がかりを築きました。

世界への挑戦権を得たのは、プロ27戦目となる1984年11月21日でした。渡辺二郎が返上したWBA世界スーパーフライ級王座の決定戦に出場し、ドミニカ共和国のエウセビオ・エスピナルと対戦。この大一番でカオサイは持ち前の強打を炸裂させ、6回KO勝利を収め、遂に世界王者の座に就きました。

1985年3月6日の韓国の李東春（後のグレート金山）との初防衛戦を7回KOで飾って以来、彼の長期政権が始まります。左の強打を軸としたパワフルな戦いぶりで、次々と挑戦者を退け、WBAスーパーフライ級のタイトルを盤石なものとしました。その圧倒的な強さと人気は、1980年代半ばに世界中で注目を集めていたマイク・タイソンに比肩されるほどになり、「タイのタイソン」と呼ばれるようになりました。

また、カオサイ・ギャラクシーのキャリアにおいて特筆すべきは、双子の兄カオコー・ギャラクシーの存在です。カオコーも同時期にボクサーとして活動しており、1988年5月9日にはWBA世界バンタム級王座を獲得しました。これにより、ギャラクシー兄弟はボクシング史上初となる双子の世界王者という歴史的な偉業を達成しました。

カオサイは、その防衛ロードの中で日本のリングにも複数回登場しています。1989年4月8日、10度目の防衛戦として横浜で日本の松村謙二と対戦し、12回判定勝ちを収めました。同年10月31日に行われた12度目の防衛戦でも、神戸で再び松村と拳を交え、激しい打撃戦の末、最終ラウンドの12回TKO勝利を収めました。さらに、1990年6月30日の14度目の防衛戦では、タイで日本のジュニアバンタム級王者（当時）中島俊一を迎え撃ち、8回TKOで退けています。

1991年12月21日、19度目の防衛戦の相手はメキシコのアルマンド・カストロでした。この試合は、カオサイのキャリアの中でも特にドラマチックな一戦となりました。序盤に挑戦者の強打でダウンを奪われるというキャリア初の危機に瀕しますが、そこから驚異的な粘りを見せ、徐々に試合のペースを掌握。後半にはダウンを奪い返し、最終的には12回判定勝ちで激闘を制しました。このカストロ戦を最後に、カオサイは現役引退を決断。保持していたWBA世界スーパーフライ級王座を返上し、栄光のリングに別れを告げました。防衛回数19回は、同階級における最多防衛記録の一つとして、今なお燦然と輝いています。

引退後もボクシングとの関わりは続きます。1994年11月には日本のマッチメーカーであるジョー小泉の招きで来日し、後楽園ホールでかつて王座を争う可能性もあった渡辺二郎氏とエキシビションマッチを行いました。その後もタイのボクサーが日本で世界戦を行う際に、応援のために度々来日するなど、日本との友好な関係を保っています。その偉大な功績が認められ、1999年には国際ボクシング殿堂入りを果たしました。

また、タイ国内では引退後も国民的英雄として絶大な人気を誇り、2007年にはタイのスポーツ紙によるタイスポーツ選手オールタイムベスト投票で栄えある1位に選ばれました。ボクサー引退後は、歌を出したり、映画やバラエティ番組に出演するなど、タレントとしても活躍しました。現在は、バンコクとプーケットにおいてムエタイジムを経営し、後進の育成に力を注いでいます。カオサイ・ギャラクシーは、その不屈の闘志と圧倒的な強さ、そして双子の兄との絆で、ボクシング史にその名を深く刻み込んだ伝説的な存在です。

もう一度検索