カサール級駆逐艦

カサール級駆逐艦：フランス海軍の防空の盾

カサール級駆逐艦は、フランス海軍が運用したミサイル駆逐艦です。その歴史は、第二次世界大戦後のフランス海軍の艦艇建造計画と深く関わっています。戦後、フランス海軍は艦隊護衛艦を建造していましたが、冷戦下の潜水艦の脅威の高まりを受け、対潜能力を重視した艦艇の開発を進めました。この流れの中で、対潜能力を強化した「ラ・ガリソニエール」や、対潜戦重視の大型護衛艦である「アコニト」とトゥールヴィル級が建造されました。

1972年の15ヶ年計画「ブルー計画」では、老朽化した艦隊護衛艦の更新を目的とし、対潜型と防空型の新型コルベットの建造が計画されました。しかし、財政上の制約から、対潜型7隻、防空型2隻のみの建造となりました。この防空型コルベットこそが、カサール級です。

カサール級の設計：対潜型艦艇からの進化

カサール級の船体設計は、対潜型コルベットであるジョルジュ・レイグ級をベースとしています。ただし、カサール級は防空能力強化のため、艦尾の可変深度ソナーと航空艤装を縮小する代わりに、アメリカ製のターター・システムを搭載しました。船型はジョルジュ・レイグ級と同じく、艦尾に切り欠きを持つ遮浪甲板型です。

耐航性と防護性を向上させるため、船体は16個の水密区画に分割され、NBC(核・生物・化学)兵器攻撃に対する防御も考慮されています。また、航行中の揺れを軽減するためにフィンスタビライザーも装備されました。

艦橋構造物はジョルジュ・レイグ級と同じ3層構造ですが、ターター・システムのレーダーを可能な限り高い位置に配置するため、後部上部構造物に後檣が追加されました。上部構造物は、重量軽減のためアルミニウム合金製です。2002年には船体の強度向上のため補強プレートが追加され、その重量増加に対応するためバラストが搭載されました。

主機関は、ジョルジュ・レイグ級のCODOG方式（ディーゼルエンジンとガスタービンエンジンの併用）ではなく、CODAD方式（ディーゼルエンジンのみ）を採用しました。これにより、ガスタービンエンジンの複雑な給排気系が不要になり、上部構造物を小型化することに成功しました。ディーゼルエンジンはSEMT ピルスティク社の高出力エンジン4基を搭載し、2基ずつ2つの推進器を駆動します。

カサール級の装備：高度なセンサーと兵器システム

カサール級は、ターター・システムと連携した戦術情報処理システムSENIT-6を中核とするC4ISRシステムを搭載し、ネットワーク化された戦闘システムを構築しました。データリンクとしては、リンク11・14に対応し、後にリンク16にも対応しました。

主要なセンサーである3次元レーダーは、後檣の頂上に設置されました。当初は国産レーダーの開発遅延のため、暫定的なレーダーが搭載されましたが、後にアクティブ・フェイズド・アレイ（AESA）式レーダーに換装されました。赤外線捜索追尾システムも搭載しています。ソナーは船底に装備され、曳航ソナーの装備も可能です。

主要な武器システムは、ターター・システムです。コスト削減のため、ミサイル発射機と射撃指揮装置は、以前の艦から転用されました。主砲は100mm単装速射砲で、レーダーと光学式照準器により射撃管制されます。近接防空にはミストラル近接防空ミサイルを使用しました。

電子戦システムも充実しており、電波探知装置、電波妨害装置、チャフ・フレア発射装置などが搭載され、これらのシステムは統合してNEWSYシステムとして運用されました。また、通信傍受装置も搭載していました。

カサール級の運用とその後

カサール級は、レバノン侵攻への参加など、様々な作戦に参加しました。しかし、老朽化に伴い、2019年から2021年にかけて順次退役し、解体されました。

まとめ

カサール級駆逐艦は、フランス海軍の艦艇建造技術の進歩と、冷戦下の海軍戦略を反映した艦艇でした。対潜戦重視の艦艇から発展した防空能力の高い艦艇として、フランス海軍の防空戦力の中核を担いました。その運用経験は、後のフランス海軍の艦艇開発に大きく貢献したと言えるでしょう。

もう一度検索