カダアン・トゥルゲン

カダアン：動乱の時代を生きたモンゴル帝国の皇族

カダアン（モンゴル語: Qada'an）は、チンギス・カンの弟であるカチウンの孫にあたるモンゴル帝国の皇族です。漢文史料ではカダアン・トゥルゲン、ペルシア語史料ではQadanと記されています。

生涯

カダアンの名前が歴史に登場し始めるのは、第4代皇帝モンケ・カーンの時代からです。モンケ・カーンによる南宋親征が始まると、カサル家のイェスンゲやオッチギン家のタガチャルといった他の東方三王家の諸王と共に従軍しました。この頃、ペルシア語史料ではナリン・カダアンと呼ばれていました。

モンケ・カーンの急死後、クビライとアリク・ブケの間で帝位継承戦争が勃発すると、カダアンはイェスンゲ、タガチャルらと共にクビライを支持し、アリク・ブケ派と戦いました。中統2年（1261年）のシムルトゥ・ノールの戦いでは、敵将カダアン・コルチ率いる3千の兵を撃退する功績を挙げ、クビライ軍の勝利に大きく貢献しました。

至元24年（1287年）、オッチギン家のナヤンを中心とする東方三王家が叛乱を起こすと、カダアンもカチウン家の一員として参加しました。この頃、漢文史料ではカダアン・トゥルゲンと呼ばれています。一般的には、ナリン・カダアンとカダアン・トゥルゲンは同一人物とされていますが、活躍年代のずれから別人とする説もあります。

ナヤンの軍勢はクビライ自らが率いる軍勢の奇襲を受け瓦解し、多くの者が降伏する中、カダアンは徹底抗戦の道を選びました。その理由として、クビライの戦後処理案では、カチウン家の新しい当主がカダアンの息子ではなくエジルとされたことが考えられています。

カダアンらは皇孫テムル（後の成宗オルジェイト・カーン）率いる遠征軍の攻撃を受け、満州一帯を転戦した後、至元28年（1291年）には高麗にまで到達しました。高麗国内で略奪行為を繰り返しましたが、クビライが派遣した元軍の迎撃により敗北し、命を落としました。

ナヤン・カダアンの乱

後世、ナヤンを盟主とする東方三王家の叛乱を「ナヤンの乱」、その後のカダアンらによる遼東・高麗での抗戦を「カダアンの乱」と呼び、これらを総称して「ナヤン・カダアンの乱」と呼んでいます。

歴代カチウン家当主

カチウン大王（Qači'un,合赤温大王）
済南王アルチダイ（Alčidai,済南王按只吉歹）
チャクラ大王（Čaqula,察忽剌大王）
クラクル王（Qulaqur,忽列虎児王）
カダアン大王（Qada'an,哈丹大王）
済南王シンナカル（Šingnaqar,済南王勝納哈児）
済南王エジル（Eǰil,済南王也只里）

参考文献

杉山正明『モンゴル帝国と大元ウルス』京都大学学術出版会、2004年
村上正二訳注『モンゴル秘史 2巻』平凡社、1972年
『新元史』巻105列伝2
* 『蒙兀児史記』巻22列伝4

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