カチノン

カチノン：カートに含まれる精神刺激性物質

カチノンは、(S)-1-フェニル-2-アミノ-1-プロパノンという化学式を持つアルカロイドです。アフリカ原産の植物、カートの葉に含まれ、その覚醒作用の主要因と考えられています。イスラエルでは「hagigat（ヘブライ語:חגיגת）」とも呼ばれています。

カチノンの構造と作用機序

カチノンの分子構造は、エフェドリン、カチン、アンフェタミンといったモノアミン系精神刺激薬と類似性があります。これらの物質はベンゼン環に水酸基を持たないため、血液脳関門を通過しやすいという特徴があり、カチノンも例外ではありません。

カチノンは血液脳関門を容易に通過し、脳の線条体においてドーパミンの放出を促進することで、覚醒作用や興奮作用を引き起こします。しかし、他の多くのモノアミン系精神刺激薬とは異なり、ケトン基を持つ点が特徴的です。

ブプロピオン（抗うつ薬）やメトカチノン（精神刺激薬）などもカチノンと骨格を共有する化合物です。特にメトカチノンとの関係は、アンフェタミンとメタンフェタミンとの関係と同じです。つまり、カチノンはメトカチノンの側鎖のβ位にケトン基を持つ点がアンフェタミンとの違いです。

なお、カチノンに対応するアルコールであるカチンは、カチノンと比較して覚醒作用が弱いことが知られています。

カチノンの存在と代謝

カチノンは、主としてカートから抽出されます。カートの覚醒作用は、主にこのカチノンによるものと考えられています。摂取されたカチノンは、体内で排泄されるだけでなく、覚醒作用の弱いカチンへと代謝されます。そのため、カートの葉を摂取してから時間が経過すると、覚醒作用が弱まるのです。

また、新鮮なカートの葉は乾燥した葉に比べて、カチンに対するカチノンの割合が高いため、より強い精神活性作用を示します。

カチノンの合成

カチノンは、α-ブロモプロピオフェノンを原料とした化学合成も可能です。この合成ルートは、違法なカチノン生産において利用される可能性があります。

カチノンの法規制

カチノンは、国際的に向精神薬に関する条約の付表Iに指定されており、その製造、輸入、輸出、所持などは厳しく規制されています。アメリカ合衆国では、1993年頃に規制物質法の付表Iに追加されました。

カートの販売については、地域によって合法と違法が分かれています。一方、合成カチノンは、アメリカ合衆国において「バスソルト」として知られる合法ドラッグの主要成分としても用いられており、その規制の強化が課題となっています。

まとめ

カチノンは、カートに含まれる強力な精神刺激作用を持つ物質です。その化学構造、作用機序、代謝、そして法規制を理解することは、健康面や社会的な観点から重要です。今後、合成カチノンを含む関連物質の規制強化や、カートの合法・違法に関わる議論も継続していく必要があるでしょう。

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