カッターラ低地

エジプト北西部、リビア砂漠の一角に位置するカッターラ低地は、広大で深い窪地地形です。行政区分ではマトルーフ県に属します。この低地の最低地点は海面下133メートルに達し、アフリカ大陸の内陸部ではジブチのアッサル湖に次いで二番目に低い場所として知られています。その面積は約18,000平方キロメートルにも及び、東西方向で最大120キロメートル、南北方向で最大80キロメートルの広がりを持っています。最も標高の低いエリアには広大な塩地（ソルトパン）が形成されています。この地形は、カッタラ窪地、カッタラ凹地といった別名でも呼ばれることがあります。

地形の成り立ち

カッターラ低地の形成は、地質学的には比較的新しい時代に遡ります。およそ500万年前から始まる新第三紀後期に窪地の形成が始まったと考えられています。当初は河川や地下水に含まれる塩分が岩石を風化・破壊する主要因でした。その後、およそ260万年前から始まる第四紀に入ると、強い風による浸食作用が加わり、現在の巨大な侵食低地へと拡大していきました。

地理的な特徴と環境

カッターラ低地の北西から北部にかけては、急峻な断層崖や塩分濃度の高い塩沼が多く見られます。また、「プラーヤ」と呼ばれる、普段は干上がっていますが大雨の際に一時的に水が溜まって湖となる低地も多数存在し、しばしば洪水を引き起こします。低地内には約4平方キロメートルのモグーラオアシスがあり、一部にはヨシが自生していますが、ここを含め、この低地に人間は定住していません。年間を通して塩沼の状態を保っているエリアは約300平方キロメートルですが、浸食によりその面積は徐々に減少しています。低地の総面積の約26パーセントにあたる19,500平方キロメートルはプラーヤであり、礫や粘土質の土地で、大雨が降った際に限って水が溜まります。

この低地のほとんどは不毛の地ですが、わずかに雨が降る地域には、アカシアの一種であるアカシア・ラディアーナの森が存在し、そこでは比較的多くの生物が見られます。

生態系

カッターラ低地は、特にチーターの重要な生息地となっています。チーターは主に低地の北部、西部、北西部に分布しており、アイン・エル・カッターラやアイン・エル・ガザラといったオアシス周辺や、低地内外のアカシアの森で確認されていますが、それぞれの生息地は孤立した状態です。彼らの主要な食料源となるのは、ガゼル属のドルカスガゼルやリムガゼルです。これらのガゼルは主に、湿地が多く柔らかい砂地の南西部に分布しています。ガゼルの生息域は約900平方キロメートルにも及び、ハティヤト・タババグやハティヤト・ウム・キタバインといったオアシス、点在する湖沼や塩沼、ヤシの森、そしてイネ科植物のデスモスタキヤ・ビピンナータの草原が含まれます。その他にも、ケープウサギ、ゴールデンジャッカル、サバクギツネ、フェネックといった動物たちが生息しています。かつてはバーバリーシープも多く生息していましたが、現在は減少しています。また、シロオリックス、アダックス、キタハーテビーストといった動物は、過去には見られましたが、現在は絶滅しています。

前述の通り、カッターラ低地に定住している人間はいません。しかし、遊牧民であるベドウィンが立ち寄ることがあり、特に乾季には水を求めてモグーラオアシスを訪れる人々がいます。

歴史的な重要性

カッターラ低地の特殊な地形は、第二次世界大戦中、特にエル・アラメインの戦いにおいて極めて重要な役割を果たしました。広大な塩沼、急峻な断層崖、そして「フェチフェチ」と呼ばれる非常に細かい砂地などは、戦車をはじめとする軍用車両の通行を極めて困難にさせました。これにより、断層崖の下に布陣したイギリス軍に対して、枢軸軍は側面から迂回攻撃を仕掛けることが事実上不可能となりました。この地の戦いは、1958年のイギリス映画『恐怖の砂』でも描かれています。

過去の開発構想

カッターラ低地を巡っては、過去にいくつかの大規模な開発構想が持ち上がりましたが、いずれも実現には至っていません。1957年には、アメリカのCIAが当時の大統領アイゼンハワーに対し、低地に水を引いて巨大な湿地を造成することを提言しました。その理由として、美しい平和な場所となること、周辺地域の気候緩和、パレスチナ難民への雇用提供、そしてエジプト大統領ナーセルのソビエト連邦からの離反を促す可能性などが挙げられましたが、アイゼンハワーはこの提案を非現実的として退けました。

1960年代には、地中海の海水を低地に導き、巨大な水力発電所を建設するという計画がナーセル大統領主導で検討されました。この計画では、約80キロメートル北にある地中海から複数の水路やトンネルを建設し、海水を発電用タービンを通した後、海面下90メートルの位置で放水するというものでした。カッターラ低地の高温・乾燥気候を利用して、放水された海水は自然に蒸発し、やがてはその水蒸気が周辺に雨をもたらすという期待も込められていました。さらに、周辺に定住地が少ないことから、水路掘削に平和利用を目的とした核爆発を用いるという極端な提案もなされました。しかし、これらの計画も、技術的・経済的な課題や環境への懸念などから、実行に移されることはありませんでした。

カッターラ低地は、その苛酷な自然環境、ユニークな生態系、そして歴史的な出来事や壮大な未実現計画といった様々な側面を持つ、極めて特異な場所と言えるでしょう。

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