カピチュレーション

カピチュレーション：オスマン帝国と西欧諸国の特権条約

概要

カピチュレーションとは、16世紀から19世紀にかけてオスマン帝国が、領内居住の外国人（主に西欧諸国）に与えた特権を指します。通商の自由、租税免除、司法における一定の保護など、多岐にわたる優遇措置が含まれていました。この特権は、オスマン帝国と西欧諸国間の外交関係、経済交流、そして帝国の政治・社会構造に多大な影響を与えました。

語義と誤解

西欧語における「capitulation」には「降伏」や「服従」といった意味が含まれるため、カピチュレーションを誤解する向きがあります。しかし、オスマン帝国におけるカピチュレーションは、あくまでも外国人に対する特権条項をまとめた条約文書を指します。オスマン帝国では、この条約文書を「アフドナーメ（条約の書）」と呼んでいました。「アフド」はアラビア語で「契約」「約束」、「ナーメ」はペルシア語で「文書」を意味します。このアフドナーメは、敵対国との講和条約や友好国との通商条約など、様々な場面で使用されました。

歴史的背景

カピチュレーションの発端は、オスマン帝国がマムルーク朝を併合したことに遡ります。オスマン帝国は、マムルーク朝時代に既に存在していた外国人に対する特権制度を継承し、発展させました。初期のカピチュレーションは、フランスとの条約（1569年）が最も確実な記録として残っています。その後、イギリス（1579年）、オランダ（1613年）、オーストリア、ロシア、スウェーデン、プロイセンなど、多くの西欧諸国が同様の特権を得ました。

フランスとの関係

フランスとオスマン帝国の間に結ばれたカピチュレーションは、特に重要な意味を持ちます。当時、フランスはスペイン・ハプスブルク朝と敵対関係にあり、オスマン帝国の支援を必要としていました。オスマン帝国にとっても、フランスとの良好な関係を構築することで、レヴァント貿易の活性化や地中海における勢力均衡の維持に繋がるというメリットがありました。この関係は、後のチューリップ時代にフランス文化がオスマン帝国に流入するきっかけともなりました。

カピチュレーションの運用と変化

カピチュレーションの運用は、必ずしも一律ではありませんでした。租界の官憲や裁判官による法解釈、オスマン帝国と西欧諸国間の当局者同士の交渉などを通じて、柔軟に運用されてきました。しかし、18世紀以降は西欧諸国の不平等条約締結の口実として利用されるようになり、オスマン帝国の主権を徐々に侵害する要因となりました。1740年のフランスとのカピチュレーションでは、スルタンからの特権という形ではなく、両国が対等な立場に立つという条項が盛り込まれるなど、内容も変化を遂げました。

19世紀とカピチュレーション

19世紀には、オスマン債務管理局による公共事業がカピチュレーションによって保護されるなど、その影響は経済面にも及んでいました。しかし、カピチュレーションは、オスマン帝国の経済的・政治的弱体化を招き、最終的には帝国の衰退の一因となりました。

イスラム法とカピチュレーション

カピチュレーションの背景には、イスラム法（シャリーア）における「ムスターミン」制度の存在があります。シャリーアは、ジハードによって世界をイスラム教で覆うことを最終目標としていますが、その過程において、ムスリムと非ムスリム（異教徒）が相互に安全保障（アマーン）を与え合うという考え方がありました。ムスターミンとして認められた非ムスリムは、一定の保護を受けることができましたが、これはあくまでも経過措置としての性格を持っていました。

結論

カピチュレーションは、オスマン帝国と西欧諸国間の複雑な歴史的関係を象徴する制度です。経済的・政治的利害が絡み合い、柔軟な運用がなされてきた一方で、最終的にはオスマン帝国の主権侵害につながるなど、その歴史的評価は多面的なものです。現代においても、カピチュレーションは歴史学や国際関係論における重要な研究対象となっています。

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