カベオリン1

カベオリン1（caveolin 1）

概要

カベオリン1（caveolin 1）は、ヒトにおいてはCAV1遺伝子によって生成されるタンパク質です。この分子は、細胞膜上に存在する「カベオラ」と呼ばれる小さなくぼみ構造の主要な構成要素であり、細胞内での多くの生化学的なプロセスにおいて重要な役割を担う足場タンパク質として機能します。カベオリンファミリーに属し、特に細胞のシグナル伝達や脂質代謝、さらには細胞の増殖制御など、多岐にわたる機能に関与しています。

構造と種類

ヒトのCAV1遺伝子は、染色体7番に位置しており、カベオリン2をコードするCAV2遺伝子と近接しています。これらカベオリン1とカベオリン2は、細胞内で互いに結合して安定な複合体（ヘテロオリゴマー）を形成し、カベオラ構造など同じ場所に存在することが知られています。

CAV1遺伝子から作られるmRNAからは、翻訳開始点の違いによって、カベオリン1にはα型とβ型という二種類の異なる分子（アイソフォーム）が生成されます。これらのアイソフォームは、構造の一部が異なるものの、共通の機能ドメインを持ち、細胞内での役割を分担あるいは協力していると考えられています。

細胞内での役割と機能

カベオリン1の最も特徴的な機能は、細胞膜上のカベオラ構造において、多様な分子に対する足場として働くことです。カベオラは、細胞外からのシグナルを受け取る多くの受容体や、細胞内のシグナル伝達に関わるタンパク質などが集まるプラットフォームとして機能します。カベオリン1は、これらの分子を物理的に結合させ、特定の場所へ集積させることで、効率的なシグナル伝達複合体の形成を促進します。

具体的には、細胞が細胞外基質に接着する際に重要な役割を果たすインテグリンや、細胞内のシグナル伝達カスケードに関わるチロシンキナーゼであるFYNといった分子をカベオラへと誘導し、これらが連携して働くための基盤を提供します。この足場機能は、細胞が外部からの刺激に応答して増殖する（細胞周期を進める）ための信号伝達経路、特にインテグリン経路とRas-ERK経路の連携における重要な開始段階を形成します。

さらに、カベオリン1は細胞の増殖制御にも深く関わっています。細胞の成長や分化に関わる主要なシグナル伝達経路であるRas-MAPキナーゼカスケード（特にp42/44MAPキナーゼ経路）の働きを抑制する負の調節因子として機能することが示されています。この抑制機能は、細胞の異常な増殖を防ぐ上で重要であり、カベオリン1ががん抑制遺伝子の候補と考えられている根拠の一つとなっています。

相互作用

カベオリン1は、その足場機能を介して、非常に多様な分子と相互作用することが分かっています。これらの相互作用は、カベオリン1分子内に存在する特定の領域であるカベオリン足場ドメイン（caveolin-scaffolding domain, CSD）を介して行われます。

一方、カベオリン1と結合する分子の側には、多くの場合、カベオリン結合モチーフ（caveolin-binding motif, CBM）と呼ばれる共通の構造や配列が存在しており、このモチーフがCSDとの特異的な結合に関与すると考えられています。

カベオリン1が相互作用することが示されている分子には、細胞膜受容体に関連するヘテロ三量体Gタンパク質、Srcファミリーのチロシンキナーゼ（Src, Lynなど）、細胞の増殖・分化に関わるH-Ras、さらに多様な受容体（TGF-β受容体1, EGFR, エンドセリンB型受容体, PDGF受容体α/β, エストロゲン受容体αなど）、さらには一酸化窒素合成酵素（eNOS, iNOS）やコレステロールといった脂質、ブルトン型チロシンキナーゼ、アミロイド前駆体タンパク質など、非常に幅広い種類の生体分子が含まれます。これらの相互作用を通じて、カベオリン1はシグナル伝達、細胞内輸送、コレステロール代謝など、細胞の基本的な機能の多くを制御しています。

まとめ

カベオリン1は、細胞膜上のカベオラの主要な構成要素であり、足場タンパク質として多様な分子の相互作用を組織化することで、細胞のシグナル伝達、特にインテグリンやRas-ERK経路の活性化、細胞周期の進行を制御しています。また、Ras-MAPキナーゼ経路の負の調節因子として働き、がん抑制遺伝子の候補としても注目されています。その多岐にわたる相互作用は、カベオリン足場ドメインを介して行われ、細胞機能の維持に不可欠な役割を果たしています。カベオリン1の研究は、細胞生物学におけるカベオラの機能解明や、がんを含む疾患のメカニズム理解、さらには治療法の開発にも貢献しています。

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