カリスマ運動

キリスト教におけるカリスマ運動（Charismatic Movement）は、20世紀後半に現れた霊的な信仰運動の一つです。この運動は、主にペンテコステ運動が強調する、聖霊に満たされる際に異言をはじめとする特別な霊的なしるしが現れるという考え方に深く根差しています。

カリスマ運動の最大の特徴は、ペンテコステ派が独自の教会や教団を形成したのとは異なり、既存の伝統的な教会（聖公会やローマ・カトリックなど、いわゆるエキュメニカル派を含む）の枠を超えて広がり、参加者がそれぞれの教派に留まりながら教会の霊的な刷新を目指した点にあります。運動の参加者たちは、使徒言行録に描かれた初代教会のように、異言や癒やしといった聖霊の賜物が力強く現れることを求め、霊的な体験を重視する信仰生活を追求します。

「カリスマ」（charisma）という言葉は、ギリシャ語の「カリス」（charis - 神の恵み）に由来し、「霊的な賜物」を意味します。この名称が、運動が聖霊の賜物を重視する性質をよく表しています。

従来のペンテコステ運動と区別するため、カリスマ運動は「近代ペンテコステ運動」「カリスマ的刷新」「新ペンテコステ運動（ネオ・ペンテコステ）」、あるいはペンテコステ運動を「聖霊の第一の波」と呼ぶのに対し「聖霊の第二の波」とも呼ばれます。

両運動にはいくつかの違いが見られます。ペンテコステ運動が聖霊体験の結果として独自の教団組織を形成したのに対し、カリスマ運動は既存の教会に留まりつつ、内部からの霊的活性化を目指しました。また、ペンテコステ運動が異言を聖霊のバプテスマに伴う必須のしるしと見なす傾向が強かったのに対し、カリスマ運動では近年、異言を必須としない人々も受け入れるなど、多様性が増しています。さらに、聖め（ホーリネス）を重んじるペンテコステ派が飲酒・喫煙に否定的な態度を取る傾向があったのに対し、カリスマ運動にはエキュメニカル派から参加した人々も多く、飲酒・喫煙に対する態度が異なったことも、両運動が距離を置く理由の一つとされます。

カリスマ運動は1960年、米国聖公会の司祭デニス・ベネットが、異言を伴う聖霊体験を公に語ったことがきっかけで大きく注目されました。この出来事はメディアでも報じられ、全米に波及しました。ベネットが後に司祭を務めたシアトルの聖ルカ監督派教会は、運動の一つの拠点となりました。

運動の拡大を推進した組織の一つに、1953年に設立された国際全福音実業家親交会（FGBMFI）があります。この会は、超教派の実業家や専門家を中心に、朝食会や夕食会といった形態で祈祷会や交流会を世界中で開催し、「全福音」（イエス・キリストを救い主、聖霊の授与者、癒やし主、再臨の王として信じる信仰）を提唱して運動を広げました。機関誌の発行やメディア活用も積極的に行われました。FGBMFIは、カトリック信徒への働きかけも行い、カトリック教会内におけるカリスマ刷新運動へとつながる一因ともなりました。

カトリック教会においては、この運動は「カトリック・カリスマ刷新（Charismatic Renewal）」と呼ばれます。1967年にペンシルベニア州のデュケイン大学で始まったとされ、ローマ教皇ヨハネ23世やパウロ6世も聖霊の働きかけの重要性に言及するなど、教皇庁も一定の理解を示しました。ただし、カトリックのカリスマ刷新は、プロテスタントのカリスマ運動の影響を受けつつも、「聖霊のバプテスマ」をプロテスタントのように新たな体験と捉えるのではなく、洗礼などの秘跡によって受けた恵みの「実際化」や「確認」であると解釈するなど、教義的な違いが見られます。

日本には1960年代から1970年代にかけてカリスマ運動が伝わりました。福音派のみならず、日本基督教団などの伝統教派、単立教会、そしてローマ・カトリック教会にも影響が及びました。しかし、運動への評価を巡っては、肯定的な人々、否定的な人々の間で深刻な対立が生じ、教会分裂や教派からの離脱といった問題も発生しました。エキュメニカル派では、ローマ・カトリック初台教会などで集会が開かれました。日本基督教団の一部からは、神学者である手束正昭氏らが聖霊刷新協議会を設立するなど、独自の展開も見られました。

カリスマ運動に関わる著名な人物としては、運動のきっかけとなったデニス・ベネット、マーリン・キャロザース、日本の手束正昭氏などが挙げられます。

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