ハワーリジュ派

ハワーリジュ派とは：イスラーム初期の特異な宗派

ハワーリジュ派（アラビア語: الخوارج al-Khawārij）は、イスラーム教の初期に多数派（のちのスンナ派とシーア派）から政治的な理由で分離した宗派です。「出ていった者・離反した者」を意味するハワーリジュ派は、イスラーム共同体（ウンマ）のあり方について独自の思想を抱き、時に過激な行動に走りました。

ハワーリジュ派の教義：厳格な純粋主義

ハワーリジュ派の最大の特徴は、イスラーム共同体の純粋性を極端なまでに重視する点にあります。彼らは聖典『クルアーン』の規定を厳格に守り、カリフ（共同体の指導者）の資格を厳しく審査しました。カリフは宗教的に敬虔で倫理的に高潔な人物でなければならず、もし不正を犯せば、カリフの資格を失うと考えました。また、彼らは「たとえ奴隷や黒人であっても全てのイスラーム教徒がカリフたりうる」と主張し、血統よりも信仰と能力を重視しました。

さらに、ハワーリジュ派は、信仰や行動がイスラーム教の理想から逸脱したムスリムを厳しく断罪しました。彼らは、罪を犯したムスリムを不信仰者（カーフィル）とみなし、共同体からの排除も辞さないという過激な思想を持っていました。不信仰者に対するジハード（聖戦）を積極的に推奨し、ジハードをムスリムの義務である五柱に含める場合もありました。中でも、アズラク派と呼ばれる先鋭的な宗派は、ムスリムから出た不信仰者とその家族を殺害することを是とし、スンナ派に対する激しい攻撃を行いました。

ハワーリジュ派の歴史：内戦と分裂の時代

ハワーリジュ派の起源は、正統カリフ時代の末期に起こったイスラーム共同体内の内戦に遡ります。第4代正統カリフのアリーと、シリア総督ムアーウィヤの間で起こったスィッフィーンの戦いにおいて、アリーがムアーウィヤと妥協したことに不満を持った人々が、アリーの陣営から離反しました。彼らは「退去した者」を意味するハワーリジュと呼ばれるようになり、独自の政治勢力を形成しました。

その後、ハワーリジュ派はアリーによってナフラワーンで打ち破られましたが、661年にはハワーリジュ派の一員によってアリーが暗殺されました。アリーの死後、ムアーウィヤがカリフとなりウマイヤ朝を開くと、ハワーリジュ派はこれとも激しく対立し、各地で反乱を起こしました。

ハワーリジュ派は多くの宗派に分裂しましたが、その大部分はウマイヤ朝の圧力を受けて消滅しました。しかし、穏健派のイバード派は、北アフリカやアラビア半島南部への布教に活路を見出し、勢力を維持しました。マグリブではルスタム朝を興し、オマーンでは現在のオマーン国の起源であるブー・サイード朝を成立させました。

ハワーリジュ派の現代への影響：過激主義との類似性

現代において、ハワーリジュ派は自派以外のムスリムを不信仰者として武力行使する集団や、反体制派に対するレッテルとして使われることがあります。特に、イスラーム主義の過激派に位置付けられるジハード団やイスラーム集団などの武装集団は、ハワーリジュ派のタクフィール（不信仰者宣告）によく似た思想をもってムスリムに対する「ジハード」を遂行しており、彼らに対するハワーリジュ派という言い方は単なるレッテルに留まらない面もあります。

ただし、ハワーリジュ派の思想と現代の過激主義を単純に結びつけることはできません。ハワーリジュ派は、あくまでイスラーム共同体の純粋性を追求した結果、過激な思想に走ったのであり、現代の過激主義とは異なる背景を持っています。また、ハワーリジュ派の中にも穏健な宗派が存在し、現代においてもその流れを汲むイバード派は、オマーンを中心に穏健なイスラームを実践しています。

ハワーリジュ派は、イスラームの歴史において特異な存在であり、その思想と行動は様々な議論を呼んでいます。彼らの歴史と教義を理解することは、イスラームの多様性を知る上で重要な意味を持つでしょう。

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