カルカルの戦い

カルカルの戦い：古代オリエントの命運を分けた激戦

カルカルの戦い（紀元前853年）は、アッシリア王シャルマネセル3世率いる強大なアッシリア軍と、シリア地方の諸国が結集した連合軍との間で繰り広げられました。この戦いは、古代オリエント世界の勢力図を大きく塗り替える転換点となり、アッシリアの西方への拡大を一時的に食い止める重要な役割を果たしました。

戦いの背景：アッシリアの拡大とシリア諸国の危機感

シャルマネセル3世の治世下、アッシリアは急速に領土を拡大していました。シリア地方は、レバノン杉などの貴重な資源の供給地であり、エジプトへと続く重要な通商路が走っていました。そのため、シリアは常に大国の争奪の的となっていました。アッシリアの勢力がシリアにまで及ぶと、それまで互いに争っていたシリアの諸王国は、共通の脅威に対抗するため同盟を結成しました。

参戦国：それぞれの思惑

アッシリア側の記録には、「ハッティ（シリア）と海岸の12人の王」という表現で、この同盟に参加した国々が記されています。主な参加国は以下の通りです。

ダマスカス王国： ハダドエゼル王が率いる連合軍の中核。戦車1,200両、騎兵1,200騎、歩兵20,000人を動員。
ハマテ王国： イルフレニ王が率いる。戦車700両、騎兵700騎、歩兵10,000人。
イスラエル王国： アハブ王が派遣。戦車2,000両、歩兵10,000人。
その他： キズワトナ、ムスリ、アルキ、アルヴァド、ウスヌ、シアヌ、アラビアなどの小国も兵力を提供。

これらの国々は、アッシリアの侵攻から自国を守るため、一時的に結束しました。しかし、その足並みは必ずしも揃っていたわけではありませんでした。

戦闘の経過：カルカルでの激突

紀元前853年、シャルマネセル3世は西方遠征を開始し、アレッポを経由してカルカル市を略奪しました。オロンテス川のほとりで、アッシリア軍はシリア連合軍と遭遇し、激戦が繰り広げられました。アッシリア側の記録では、シャルマネセル3世が圧倒的な勝利を収めたとされていますが、実際にはアッシリア軍はシリア地方を征服することができず、その後も繰り返し遠征を行っています。このことから、カルカルの戦いはアッシリアにとって決定的な勝利ではなかったと考えられています。

戦いの結果：アッシリアの足踏みとシリアの分裂

カルカルの戦いの結果、アッシリアの西方への領土拡大は一時的に停止しました。しかし、シリア諸国の同盟も長くは続きませんでした。共通の敵がいなくなると、各国は再び争いを始め、紀元前853年以降にはダマスカスとイスラエルの間で戦いが起こり、イスラエル王アハブが戦死する事態となりました。

カルカルの戦いは、アッシリアの拡大を一時的に阻止したものの、シリア地方の不安定さを露呈する結果となりました。この戦いは、その後のオリエント世界の勢力図に大きな影響を与え、各国の興亡を左右する要因となりました。

参考：旧約聖書（列王記上、列王記下、歴代誌下）には、カルカルの戦いに関連する記述があり、当時の人々の視点から事件を考察することができます。

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