カルガリー・フレームス
NHLに所属するカルガリー・フレームスは、カナダ西部アルバータ州の主要都市カルガリーを拠点とするプロアイスホッケーチームです。その歴史は、カナダではなくアメリカ合衆国南東部、ジョージア州アトランタに始まります。
1972年、NHLは新たなフランチャイズとして、ニューヨーク・アイランダースと共にアトランタ・フレームスの参入を発表しました。「フレームス」という名称は、アメリカ南北戦争中の1864年にウィリアム・シャーマン将軍が行ったアトランタ方面作戦における都市の炎上（アトランタ大火）に由来するとされています。しかし、当時多くのアイスホッケーファンは、温暖な気候のアメリカ南部にプロチームを設立することに懐疑的でした。その懸念はある意味で的中し、アトランタ・フレームスはリーグ下位に低迷し続け、本拠地を置いた8年間でプレイオフでのシリーズ勝利を一度も記録することはできませんでした。
1980年、経済的な低迷に苦しんでいたアトランタから、チームはカナダのカルガリー資本へと売却され、名称をカルガリー・フレームスへと変更しました。アルバータ州での最初のシーズン、チームはケント・ニールソン選手が49ゴールを挙げる活躍などもあり、早速プレイオフに進出します。1回戦でシカゴ・ブラックホークスを、2回戦ではフィラデルフィア・フライヤーズを激闘の末破る躍進を見せましたが、準決勝でミネソタ・ノーススターズ（現ダラス・スターズ）に敗れました。その後、1986年までにはダグ・ライズボロー、ラニー・マクドナルド、ダン・クインといった経験豊富な選手や、ゴーリー（ゴールテンダー）のマイク・バーノンなど、チームの核となる選手を獲得し、戦力を強化します。同年のプレイオフでは、1回戦でバンクーバー・カナックス、そして2回戦ではライバルであったエドモントン・オイラーズをスティーブ・スミス選手の偶然のオウンゴールという劇的な展開で破るなど、勢いに乗ってセントルイス・ブルースをも破り決勝へ進出しました。しかし、当時リーグを席巻していたモントリオール・カナディアンズの前に屈し、1勝4敗で惜しくもスタンレー・カップ獲得はなりませんでした。
しかし、その雪辱を果たす時が来ます。1989年、カルガリー・フレームスは再びスタンレー・カップ決勝の舞台へ進出し、対戦相手は前回と同じモントリオール・カナディアンズでした。この年、フレームスはキャプテンであるラニー・マクドナルド選手の引退に花を添えるべく奮戦し、見事にカナディアンズを破り、チーム史上初のスタンレー・カップ優勝を飾りました。この優勝は、相手チームの本拠地でビジターチームが優勝を決めた初めての出来事としても記録されています。当時の主力選手には、セオレン・フルーリー、ジョー・ニューウェンダイク、ゲイリー・ロバーツ、アル・マキニス、そしてゴーリーのマイク・バーノンといった名が挙げられます。
栄光の後、チームはしばらく低迷期を迎えます。1989年当時の中心選手たちは次々とチームを離れるか引退し、チームは7年連続でプレイオフ進出を逃す苦しい時期が続きました。この間に、後にチームの顔となるジャローム・イギンラ選手をドラフトで獲得。イギンラ選手は2003年頃にキャプテンに就任し、チームを牽引する存在となります。
長い低迷を経て、チームは2004年に劇的な復活を遂げます。この年のプレイオフで、フレームスはカナダのチームとして初めて、ウェスタン・カンファレンスを構成する三つの地区（ノースウェスト、セントラル、パシフィック）の優勝チーム全てを下すという快挙を成し遂げ、スタンレー・カップ決勝へと駒を進めました。ノースウェスト地区優勝のバンクーバー・カナックスをフルセットの末に破ると、レギュラーシーズン最高成績でプレジデント・トロフィーを獲得したセントラル地区優勝の強豪デトロイト・レッドウイングスを破り、さらにウェスタン・カンファレンス決勝ではパシフィック地区優勝のサンノゼ・シャークスをも退けました。決勝ではタンパベイ・ライトニングと対戦しました。
1993年以降、自国チームのカップ獲得から遠ざかっていたホッケー大国カナダの国民は、この快進撃を「シンデレラ物語」になぞらえ、フレームスに熱狂的な声援を送りました。ワシントンD.C.のカナダ大使館ではメープルリーフ旗の代わりにフレームスの旗が掲げられ、サンノゼ市民会館でも同様の光景が見られました（このシリーズ後、サンノゼ市長は市民会館を「フレームスファンの総本山」と称したと言われています）。決勝シリーズは、フレームスのホームで行われた第6戦での疑惑のノーゴール判定などもあり、最終第7戦までもつれ込みました。ライトニングは第6戦を制し、第7戦でも序盤はフレームスの攻撃をわずか7ショットに抑える奮闘を見せましたが、フレームスも終盤に猛攻を仕掛けます。しかし、惜しくも追いつくことはできず、2004年6月7日、1対2で勝利を逃し、準優勝に終わりました。
この2004年の快進撃を語る上で欠かせないのが、ゴーリーのミカ・キプラソフ選手の存在です。彼は2003-2004シーズン中にサンノゼ・シャークスからトレードで移籍してくると、それまで控え選手だったとは思えないほどの活躍を見せ、瞬く間にチームの守護神となりました。彼の加入と活躍はチームに自信をもたらし、それまでの正ゴーリーであったロマン・タレック選手がNHLを引退するほどのインパクトがありました。キプラソフ選手は、2004-2005シーズンはロックアウトでシーズンが中止となったものの、翌2005-2006シーズンには最優秀ゴーリーに贈られるヴェジーナ賞を獲得するなど、高いレベルのパフォーマンスを維持しました。彼の活躍もあり、フレームスは2003-2004シーズン以降、継続的にプレイオフへ進出しています。ちなみに、この2003-2004シーズンには、NHL全体のルール変更によりホーム用とビジター用のジャージーカラーが入れ替わったため、フレームスは新たなデザイン（赤を基調に、燃えるような黒い「C」のエンブレム）を発表しました。
2004年のプレーオフ期間中、カルガリー市は100万人を超える住民が文字通りフレームスフィーバーに沸きました。特に、チームのホームアリーナであるサドルドームから西に伸びる歓楽街として知られる17番通りには、試合終了後、赤色のチームカラーを身に着けたファンが6万人とも言われる規模で押し寄せ、通りは熱狂に包まれました。この現象から、この通りは「レッド・マイル（The Red Mile）」と呼ばれるようになりました。レッド・マイルでのファンの騒ぎ方には批判的な意見もありましたが、一方でその熱狂ぶりは世界的に知られるようになり、メディアでもたびたび取り上げられました。サッカーにおけるフーリガンのような暴徒化の懸念もありましたが、レッド・マイルではそうした例は少なく、群衆の行動は概ね肯定的で、逮捕者も少なかったとされています。
カルガリー・フレームスは、これまでにスタンレー・カップを1度（1988-1989シーズン）制覇しており、準優勝は1度（2003-2004シーズン）記録しています。
1972年、NHLは新たなフランチャイズとして、ニューヨーク・アイランダースと共にアトランタ・フレームスの参入を発表しました。「フレームス」という名称は、アメリカ南北戦争中の1864年にウィリアム・シャーマン将軍が行ったアトランタ方面作戦における都市の炎上（アトランタ大火）に由来するとされています。しかし、当時多くのアイスホッケーファンは、温暖な気候のアメリカ南部にプロチームを設立することに懐疑的でした。その懸念はある意味で的中し、アトランタ・フレームスはリーグ下位に低迷し続け、本拠地を置いた8年間でプレイオフでのシリーズ勝利を一度も記録することはできませんでした。
1980年、経済的な低迷に苦しんでいたアトランタから、チームはカナダのカルガリー資本へと売却され、名称をカルガリー・フレームスへと変更しました。アルバータ州での最初のシーズン、チームはケント・ニールソン選手が49ゴールを挙げる活躍などもあり、早速プレイオフに進出します。1回戦でシカゴ・ブラックホークスを、2回戦ではフィラデルフィア・フライヤーズを激闘の末破る躍進を見せましたが、準決勝でミネソタ・ノーススターズ（現ダラス・スターズ）に敗れました。その後、1986年までにはダグ・ライズボロー、ラニー・マクドナルド、ダン・クインといった経験豊富な選手や、ゴーリー（ゴールテンダー）のマイク・バーノンなど、チームの核となる選手を獲得し、戦力を強化します。同年のプレイオフでは、1回戦でバンクーバー・カナックス、そして2回戦ではライバルであったエドモントン・オイラーズをスティーブ・スミス選手の偶然のオウンゴールという劇的な展開で破るなど、勢いに乗ってセントルイス・ブルースをも破り決勝へ進出しました。しかし、当時リーグを席巻していたモントリオール・カナディアンズの前に屈し、1勝4敗で惜しくもスタンレー・カップ獲得はなりませんでした。
しかし、その雪辱を果たす時が来ます。1989年、カルガリー・フレームスは再びスタンレー・カップ決勝の舞台へ進出し、対戦相手は前回と同じモントリオール・カナディアンズでした。この年、フレームスはキャプテンであるラニー・マクドナルド選手の引退に花を添えるべく奮戦し、見事にカナディアンズを破り、チーム史上初のスタンレー・カップ優勝を飾りました。この優勝は、相手チームの本拠地でビジターチームが優勝を決めた初めての出来事としても記録されています。当時の主力選手には、セオレン・フルーリー、ジョー・ニューウェンダイク、ゲイリー・ロバーツ、アル・マキニス、そしてゴーリーのマイク・バーノンといった名が挙げられます。
栄光の後、チームはしばらく低迷期を迎えます。1989年当時の中心選手たちは次々とチームを離れるか引退し、チームは7年連続でプレイオフ進出を逃す苦しい時期が続きました。この間に、後にチームの顔となるジャローム・イギンラ選手をドラフトで獲得。イギンラ選手は2003年頃にキャプテンに就任し、チームを牽引する存在となります。
長い低迷を経て、チームは2004年に劇的な復活を遂げます。この年のプレイオフで、フレームスはカナダのチームとして初めて、ウェスタン・カンファレンスを構成する三つの地区（ノースウェスト、セントラル、パシフィック）の優勝チーム全てを下すという快挙を成し遂げ、スタンレー・カップ決勝へと駒を進めました。ノースウェスト地区優勝のバンクーバー・カナックスをフルセットの末に破ると、レギュラーシーズン最高成績でプレジデント・トロフィーを獲得したセントラル地区優勝の強豪デトロイト・レッドウイングスを破り、さらにウェスタン・カンファレンス決勝ではパシフィック地区優勝のサンノゼ・シャークスをも退けました。決勝ではタンパベイ・ライトニングと対戦しました。
1993年以降、自国チームのカップ獲得から遠ざかっていたホッケー大国カナダの国民は、この快進撃を「シンデレラ物語」になぞらえ、フレームスに熱狂的な声援を送りました。ワシントンD.C.のカナダ大使館ではメープルリーフ旗の代わりにフレームスの旗が掲げられ、サンノゼ市民会館でも同様の光景が見られました（このシリーズ後、サンノゼ市長は市民会館を「フレームスファンの総本山」と称したと言われています）。決勝シリーズは、フレームスのホームで行われた第6戦での疑惑のノーゴール判定などもあり、最終第7戦までもつれ込みました。ライトニングは第6戦を制し、第7戦でも序盤はフレームスの攻撃をわずか7ショットに抑える奮闘を見せましたが、フレームスも終盤に猛攻を仕掛けます。しかし、惜しくも追いつくことはできず、2004年6月7日、1対2で勝利を逃し、準優勝に終わりました。
この2004年の快進撃を語る上で欠かせないのが、ゴーリーのミカ・キプラソフ選手の存在です。彼は2003-2004シーズン中にサンノゼ・シャークスからトレードで移籍してくると、それまで控え選手だったとは思えないほどの活躍を見せ、瞬く間にチームの守護神となりました。彼の加入と活躍はチームに自信をもたらし、それまでの正ゴーリーであったロマン・タレック選手がNHLを引退するほどのインパクトがありました。キプラソフ選手は、2004-2005シーズンはロックアウトでシーズンが中止となったものの、翌2005-2006シーズンには最優秀ゴーリーに贈られるヴェジーナ賞を獲得するなど、高いレベルのパフォーマンスを維持しました。彼の活躍もあり、フレームスは2003-2004シーズン以降、継続的にプレイオフへ進出しています。ちなみに、この2003-2004シーズンには、NHL全体のルール変更によりホーム用とビジター用のジャージーカラーが入れ替わったため、フレームスは新たなデザイン（赤を基調に、燃えるような黒い「C」のエンブレム）を発表しました。
2004年のプレーオフ期間中、カルガリー市は100万人を超える住民が文字通りフレームスフィーバーに沸きました。特に、チームのホームアリーナであるサドルドームから西に伸びる歓楽街として知られる17番通りには、試合終了後、赤色のチームカラーを身に着けたファンが6万人とも言われる規模で押し寄せ、通りは熱狂に包まれました。この現象から、この通りは「レッド・マイル（The Red Mile）」と呼ばれるようになりました。レッド・マイルでのファンの騒ぎ方には批判的な意見もありましたが、一方でその熱狂ぶりは世界的に知られるようになり、メディアでもたびたび取り上げられました。サッカーにおけるフーリガンのような暴徒化の懸念もありましたが、レッド・マイルではそうした例は少なく、群衆の行動は概ね肯定的で、逮捕者も少なかったとされています。
カルガリー・フレームスは、これまでにスタンレー・カップを1度（1988-1989シーズン）制覇しており、準優勝は1度（2003-2004シーズン）記録しています。
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