カルタゴ滅ぶべし

カルタゴ滅ぶべし

「カルタゴ滅ぶべし」（カルタゴほろぶべし、ラテン語: Carthāgō dēlenda est（カルターゴー・デーレンダ・エスト））は、共和政ローマ時代の政治家、大カトー（マルクス・ポルキウス・カトー・ケンソリウス）が、演説の最後に繰り返したとされる有名な言葉です。

起源と変遷

この言葉は、カルタゴに対するローマの積年の恨みと、将来への不安から生まれたとされています。大カトーは元老院で演説するたびに、「カルタゴは滅ぼされるべきだ」（Carthāginem dēlendam）と主張しました。プリニウスの『博物誌』には、大カトーがカルタゴ産のイチジクを議場に持ち込み、「これはいつ採れたものだと思うかね？」と議員たちに問いかけたという逸話が残っています。このエピソードは、カルタゴの脅威が依然として存在することを示唆するためのものでした。

ただし、「カルタゴ滅ぶべし」という言葉が、大カトーの言葉として古代の史料にはっきりと書かれているわけではありません。キケローの著作に類似の表現が見られるものの、「滅ぼす（dēlēre）」という直接的な表現は、後の時代のコルネリウス・ネポスやウェッレイウス・パテルクルスの著作で使われ始めました。プルタルコスの『対比列伝』には、大カトーが「カルタゴも耐えるべきだ」と発言したという異なった記述も見られます。4世紀のアウレリウス・ウィクトルに至って、「Catō Carthāginem dēlendam cēnsuit.（カトーはカルタゴは滅ぼされるべきであると述べた）」という表現が登場し、この形が定着したのは帝政ローマ時代と考えられています。

歴史的背景

カルタゴは、現在のチュニジアにあたる北アフリカに位置する、フェニキア人によって建設された都市国家でした。海洋国家として繁栄し、地中海の覇権をローマと争いました。ポエニ戦争と呼ばれる三度にわたる戦争で、ローマはカルタゴと激突しました。第二次ポエニ戦争では、カルタゴの名将ハンニバルがアルプスを越えてイタリアに侵攻し、ローマを幾度も苦しめました。

紀元前146年、第三次ポエニ戦争においてローマはカルタゴを完全に打ち破りました。カルタゴの都市は徹底的に破壊され、生き残った住民は奴隷として売られました。伝説によれば、ローマはカルタゴの再興を防ぐために、その跡地に塩を撒いたとされていますが、これは後世の創作と考えられています。

「カルタゴ滅ぶべし」という言葉は、単なる歴史的な出来事を表す言葉ではなく、国家間の対立、憎悪、そして徹底的な破壊という、人類の歴史における暗い側面を象徴する言葉として、後世に語り継がれています。近年でも、主戦論者が自らの主張を正当化するために引用することがあります。

参考文献

Charles E. Little (1934). “The Authenticity and Form of Cato's Saying 'Carthago Delenda Est,'”. The Classical Journal (CAMWS) 29 (6): 429-435. JSTOR 3289867.

関連項目

カルタゴ
ポエニ戦争
カルタゴの和平

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