カレン族の独立運動

カレン族の独立運動（ソー・バウジーの死まで）

ミャンマーにおけるカレン族の独立運動は、イギリス植民地時代からカレン民族同盟（KNU）の指導者ソー・バウジーが亡くなるまでの期間に焦点を当て、カレン族が経験した民族間の緊張、自治への希求、そして武装闘争への道を詳述する歴史である。

カレン族の社会背景

ミャンマーにおいて、カレン族はビルマ族、シャン族に次ぐ主要な民族集団である。彼らは多様なグループに分かれ、特にスゴー・カレン（主に山岳部・キリスト教徒）とポー・カレン（主に低地・仏教徒）が大多数を占める。宗教的には仏教徒が多数派だが、キリスト教徒も一定数を占め、アニミズムや少数のイスラム教徒も存在する。主な居住地はエーヤワディー・デルタ地帯とタイ国境の山岳部である。カレン族はビルマ族より古くからこの地に住んでいたと主張するが、歴史的な裏付けは明らかでない。ビルマ族による長年の抑圧があったとする説と、伝統的には両者は無関心であり、カレン族がビルマ族に劣等感を抱いていたとする説が存在し、民族関係は複雑である。

キリスト教の影響と民族意識

19世紀初頭にアメリカ人バプティスト派宣教師がミャンマーに到来し、特にデルタ地帯のスゴー・カレン族の間でキリスト教が急速に広まった。宣教師はカレン文字を発明し、教育にも力を入れたことで、キリスト教徒カレン族からは高学歴のエリート層が現れた。彼らは植民地政府下で軍人、警察官、公務員などの要職に就き、社会の中枢を担うようになる。この層がカレン族の言説形成に影響を与え、「親英的でキリスト教徒、分離主義的」というイメージが定着したが、これはビルマ族との間に摩擦を生む要因となった。

植民地統治と民族対立の深化

英緬戦争において、カレン族はイギリス側に立ってビルマ族と戦ったため、戦後にビルマ族による報復攻撃を受け、デルタ地帯は荒廃した。植民地政府による教育を受けたカレン族の重用は、ビルマ族の間に恨みを募らせ、両者の対立を深めたと一般的には考えられている。サヤー・サンの乱鎮圧にカレン部隊が動員されたことは、ビルマ族の反感を強く買った。一方で、植民地期の「分割統治」戦略は、意図的な分断策ではなく、既存の民族的多様性を統治に利用したものに過ぎなかったという異論も存在する。とはいえ、植民地下で少数民族が活躍することへのビルマ族エリート層の不満は明らかであり、これが独立後の対立につながる一因となった。

カレン民族主義の芽生えと政治運動

1881年、キリスト教徒カレン知識人によりカレン民族協会（KNA）が設立され、カレン族の歴史、言語、アイデンティティの統合と社会的地位向上を目指した。KNAはビルマで初めて民族名を冠した組織とされる。KNAの活動により、立法評議会でのカレン族議席確保や、サン・C・ポーによる「カレン族の国」創設の主張など、民族的な要求が明確化された。カレン旗やカレン歌の制定も行われ、民族の象徴が確立された。仏教徒カレン族の間では民族意識は比較的緩やかだったが、排斥の動きの中で民族史書が出版され、仏教徒カレン族主導のビルマ・カレン民族教会（BKNA）も結成された。

ミャウンミャ事件の悲劇

第二次世界大戦中、日本軍と行動を共にした一部ビルマ族武装集団によるカレン族への攻撃は、両民族の関係を決定的に悪化させた。1942年にエーヤワディー・デルタのミャウンミャ県で発生した衝突では、数千人が死亡し、多数が避難民となる大惨事となった。この事件はデルタ地帯の仏教徒カレン族にも民族意識を芽生えさせる契機となった。戦後、この事件の真相究明が試みられたが、結局はうやむやに終わった。

独立に向けた交渉とKNU結成

戦後、ミャンマーが独立に向かう中で、カレン族指導者の一部はイギリス植民地体制の維持を望み、カレン親善使節団をイギリスへ派遣して自治を要求したが、大きな成果は得られなかった。1947年、ビルマの独立が確実となる中で、主要カレン組織が統合され、カレン民族同盟（KNU）が結成された。KNUは統一ビルマ内でのカレン州設立を求めたが、独立に向けたパンロン協定や憲法ではカレン州の設置は認められず、地方自治評議会（KAC）の設置に留まった。この時期、カレン族の指導層の間でも要求が一致せず、アウンサン暗殺後は分裂が深まった。

武装反乱の始まり

1948年1月4日にミャンマーがビルマ連邦として独立すると、カレン族は各地で大規模なデモを実施し、自治州設立や平等を訴えた。しかし、その裏でカレン民族防衛機構（KNDO）が武装組織として力を増し、実効支配地域を広げていた。政府（ウー・ヌ首相）は対話を通じて融和を図り、一時的にKNDOの武装を容認するなどしたが、12月のパロー事件で国軍準軍事組織がキリスト教徒カレン族を多数殺害したことが決定的な引き金となった。この事件を機に、国軍内のカレン族兵士が多数KNDO側に合流し、テナセリム、デルタ地帯、ヤンゴン郊外などで武装衝突が勃発した。ビルマ族とカレン族間の暴力事件が相次ぎ、民族間の対立は深刻化した。

インセインの戦いと交渉の失敗

事態収拾を図るウー・ヌ首相とソー・バウジーだったが、武装衝突は避けられなくなった。KNU本部はヤンゴン郊外のインセイン郡区に移り、KNDO部隊が集結した。インセインは国軍による激しい包囲攻撃に晒され、戦闘は112日間に及んだ。KNDOは奮戦したが、多数の犠牲者を出した。国軍内のカレン部隊による援軍も期待されたが、離反した部隊が壊滅したり、インセインに到達できなかったりしたため、孤立を深めた。戦闘中に和平交渉が試みられ、ソー・バウジーは政府提案に署名したが、KNU本部は条件を拒否し、交渉は決裂。国軍が停戦中に包囲を強化したこともカレン側を刺激した。激戦の末、KNDOはインセインからの撤退を余儀なくされた。

ソー・バウジーの最期

インセイン撤退後、ソー・バウジーはタウングーで「コートレイ暫定政府」樹立を宣言し、抵抗を続けた。しかし、カレン反乱軍は劣勢となり、拠点を失っていった。1950年7月のKNU大会では、「降伏は許されない」「カレン国家の承認」「兵器保持」「政治的運命決定」というカレン革命原則が採択され、闘争継続の意志が示された。大会後、ソー・バウジーはタイ国境近くへ移動したが、8月12日未明、国軍部隊に発見され、銃撃戦の末に死亡した。彼の遺体は水葬に付され、「聖地化」が避けられた。カリスマ的な指導者の死は、その後のカレン族の独立運動に大きな影響を与えた。

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