カントリー・パンプキン

『カントリー・パンプキン』(Country Pumpkin)

1972年1月、日本の音楽シーンに異彩を放つ一枚のアルバムが誕生しました。その名も『カントリー・パンプキン』。日本のカントリーミュージック界で確固たる地位を築いていたジミー時田、寺本圭一、斉藤任弘、大野義夫という4人の実力派歌手が名を連ねた共同名義作品であり、日本コロムビア傘下のマッシュルーム/デンオン・レーベルからリリースされました。

異色のコラボレーション

本作が「異色」とされる所以は、これらのカントリー界のベテランたちが、当時日本のロック／ポップスシーンで頭角を現しつつあった細野晴臣のプロジェクトに参加し、制作された点にあります。細野晴臣は単なるプロデューサーに留まらず、多くの楽曲でプレイヤーとしても深く関わっており、当時の細野が追求していた音楽性が、カントリーという土壌の上にどのように結実したのかを示す貴重な記録となっています。この組み合わせは、当時の音楽シーンにおいて、ジャンル間の壁を越えた試みとして注目されました。

収録曲

アルバムは全10曲で構成されています。

SIDE A

1. はみだした男 – (2'51")
2. また陽が落ちる – (3'37")
3. 春を待っている – (2'20")
4. 離れていても – (3'15")
5. 君を呼ぶヨーデル – (4'08")

SIDE B

1. それだけの幸せ – (2'56")
2. 終りの季節 – (3'20")
3. 星の涙 – (3'10")
4. 平和のタムタム – (2'42")
5. まっしゅるうむ青年團 – (2'02")

特筆すべきは、収録曲「終りの季節」です。この楽曲は、細野晴臣が翌1973年に発表した自身のソロアルバム『HOSONO HOUSE』にて、セルフカバーとして再び取り上げられています。このことからも、「終りの季節」が本作において、そして細野自身のキャリアにおいても重要な意味を持つ楽曲であったことがうかがえます。

参加ミュージシャン

このアルバムの制作には、細野晴臣だけでなく、当時の日本の音楽シーンを彩る多くの優れたミュージシャンが参加しています。パーソネル情報からは、各楽曲のヴォーカル担当や演奏楽器が詳細にわかります。

「はみだした男」: ジミー時田がヴォーカルを担当。細野晴臣がベースとピアノ、松本隆がドラムス、柴田千歳がアコースティック・ギターを演奏。
「また陽が落ちる」: 寺本圭一のヴォーカル。細野晴臣はベースを担当し、宮城久弥（フィドル）、原田実、大野克夫（スティール・ギター）、大野克夫（ピアノ）、原田祐臣（ドラムス）といったプレイヤーが参加。
「春を待っている」: 斎藤任弘が歌唱。細野晴臣はベースとアコースティック・ギター、林立夫がドラムス、大野克夫がドブロで参加。
「離れていても」: 寺本圭一が再びヴォーカル。細野晴臣がベースとアコースティック・ギター、原田祐臣がドラムス、柴田千歳がエレクトリック・ギター、成田賢がブルース・ハープを演奏。
「君を呼ぶヨーデル」: 大野義夫がヴォーカル、アコースティック・ギター、バンジョーを担当。細野晴臣はベース、松本隆がドラムス、成田賢がアコースティック・ギターで参加。
「それだけの幸せ」: 寺本圭一のヴォーカル曲。細野晴臣がベースとアコースティック・ギター、原田祐臣がドラムス、柴田千歳がエレクトリック・ギター、大野克夫がピアノを演奏。
「終りの季節」: 斎藤任弘が歌っています。細野晴臣はベース、ピアノ、アコースティック・ギターと多岐にわたる演奏で関わり、林立夫がドラムスを担当。
「星の涙」: 大野義夫がヴォーカル、アコースティック・ギター、バンジョーを担当。細野晴臣がベース、松本隆がドラムス、柴田千歳がアコースティック・ギターで参加。
「平和のタムタム」: ジミー時田が歌唱。細野晴臣はベースを担当し、脇俊文（チェロ）、柴田千歳（エレクトリック・ギター）、そして松本隆が和太鼓というユニークな編成で参加。
「まっしゅるうむ青年團」: この楽曲には宇野もんどがアコースティック・ベース、アコースティック・ギター、カズー、マンドリンで参加しています。

これらの参加者リストからもわかるように、細野晴臣は多くの楽曲で中心的な役割を担い、ベース演奏を通じてサウンドの基盤を構築しています。また、松本隆や林立夫、原田祐臣といった後のロック/ポップスシーンで活躍するドラマーたち、大野克夫や柴田千歳といったギタリスト/鍵盤奏者たち、さらにはチェロや和太鼓、ドブロといった多様な楽器も取り入れられており、単なる伝統的なカントリーアルバムに留まらない、実験的かつ豊かな音楽性が追求されていたことがうかがえます。

『カントリー・パンプキン』は、日本のカントリー界と当時台頭しつつあった新しい音楽勢力との貴重な接点を示す作品として、日本のポピュラー音楽史における隠れた名盤と言えるでしょう。カントリーの叙情性と、細野晴臣を中心とするミュージシャンたちによる先鋭的なアプローチが融合した、唯一無二のサウンドがここにあります。

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