カーボンブラック

カーボンブラック：多様な用途を持つ微細炭素粒子

カーボンブラックは、直径3～500ナノメートルの微細な炭素粒子で、工業的に品質管理されたものです。化学的には単体の炭素ですが、表面には様々な官能基が存在し、複雑な組成を持ちます。そのため、無定形炭素の一種とされています。俗称として「カー黒」とも呼ばれています。

製造方法と特性

カーボンブラックは、石炭乾留で副生するクレオソート油や石油精製で副生する重質芳香族油などの油やガスを不完全燃焼させるか、アセチレンなどの炭化水素を熱分解することで製造されます。不完全燃焼で生じる炭素微粒子は一般的に「すす」と呼ばれますが、工業的に品質管理されたものはカーボンブラックと区別されます。伝統的な製法で作られる墨の材料となるすすは、品質管理されたカーボンブラックの一種と言えるでしょう。

製造方法によって粒子径、粒子のつながり方（ストラクチャー）、表面性状（官能基）が変化し、これにより黒色度や塗料との親和性、導電性などが大きく異なります。これらの特性は、製造工程でコントロールすることが可能です。

カーボンブラックの用途

カーボンブラックの用途は多岐に渡り、最も大きな用途はゴム製品の補強材です。ゴムとのなじみが良いため、タイヤ、ベルト、ホースなど、様々なゴム製品に添加され、使用量の90％以上を占めます。自動車用タイヤはカーボンブラック需要の約70％を占めており、タイヤが黒いのはこのためです。カーボンブラックの代替として、湿式シリカが使用される場合もあり、「ホワイトカーボン」と呼ばれています。

また、黒色顔料としても広く利用され、塗料、印刷インキ、墨汁などに使用されます。この用途では「カラー用カーボン」と呼ばれます。さらに、電子・電気材料への導電性付与、紫外線吸収剤など、機能性材料としても使用されます。

製品形態は黒色粉末の他に、プラスチックやゴムと予備混合したマスターバッチや、水に分散させた液状品などがあります。輸送方法は粉末の場合は袋詰め、タンクローリー輸送など様々です。

代表的な用途を以下にまとめます。

ゴム製品の補強材: タイヤ、ベルト、ゴムシート、緩衝材など。特にタイヤやベルトには、耐摩耗性の高い「ハードカーボン」が使用されます。
着色顔料: 塗料、印刷インキ、墨汁など。液体に分散させたり、プラスチックに直接混合して着色します。
静電コピー機のトナー: 着色プラスチックを粉砕・微粒化して使用されます。
電線の被覆材: 合成樹脂に配合され、紫外線吸収性を活かしています。
導電性付与剤: 導電性ゴムを含む電子部品や乾電池に使用されます。
磁気記録媒体への添加剤: フロッピーディスクなど。
化粧品: マスカラやアイライナーなど。
食品着色料

カーボンブラックの種類

カーボンブラックは製造方法によって特性が大きく異なるため、製造方法で分類されることが多くあります。主な製造方法とその特徴は以下の通りです。

ファーネス法 (ファーネスブラック): 油やガスを高温ガス中で不完全燃焼させる方法。オイルファーネス法とガスファーネス法があり、大量生産に適し、粒子径やストラクチャーをコントロールしやすいのが特徴です。現在主流となっている製造法で、流通しているカーボンブラックの大部分はファーネスブラックです。
チャンネル法 (チャンネルブラック): 天然ガスを燃焼させ、チャンネル鋼に析出させたものを集める方法。超微粒子のカーボンブラックが得られます。「ガスブラック」とも呼ばれます。
アセチレン法 (アセチレンブラック): アセチレンガスを熱分解する方法。導電性が高く、不純物が少ないのが特徴です。
サーマル法 (サーマルブラック): 蓄熱炉内でガスの燃焼と分解を繰り返す方法。粗粒子のカーボンブラックが得られます。

また、粒子の堅さによって「ハードカーボン」と「ソフトカーボン」に分類されることもあります。

生産量とメーカー

2006年以降、中国がカーボンブラックの生産量・生産能力で世界一となっています。日本国内の生産量は減少傾向にあり、輸入品の増加も影響しています。

主なメーカーには、旭カーボン、キャボットジャパン、東海カーボン、日鉄カーボン、三菱ケミカル、デンカ、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズなどの日本企業、そして中国、アメリカ、カナダなどの海外企業があります。

発がん性と法規制

カーボンブラックは純粋な炭素分子ではなく、表面の官能基が潜在的な発がん性を有する可能性があります。国際がん研究機関 (IARC) はグループ2B（ヒトに対する発がん性が疑われる）に分類しています。そのため、労働安全衛生法、船舶安全法などの関連法規制が適用されます。

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