カール・スターリング

カール・W・スターリング：アメリカン・アニメーションの黄金時代を彩った作曲家

カール・W・スターリング (1891年-1972年) は、アメリカ合衆国ミズーリ州出身の作曲家です。彼の名前は「カール・ストーリング」や「カール・W・ストーリング」と表記されることもあります。スターリングは、バッグス・バニーなどの人気キャラクターが登場するルーニー・テューンズを始め、数々のワーナー・ブラザース制作のアニメーション映画の音楽を担当することで知られています。その功績は、アメリカン・アニメーションの黄金時代を代表する作曲家、スコット・ブラッドリーと並ぶほど高く評価されています。

輝かしいキャリアの始まり：映画館からディズニーへ

スターリングは少年時代、映画『大列車強盗』を観て映画業界への道を志しました。その後、地元レキシントンの映画館で、映写機のフィルム交換時の繋ぎとしてピアノ演奏を行うようになります。カンザスシティ音楽院でピアノとパイプオルガンを学んだ彼は、カンザスシティ近郊の映画館でピアニストとして活動を始め、やがて映画館の楽団でピアノ、オルガン、指揮を担当するようになりました。サイレント映画全盛期には、長編映画では楽団の演奏曲をセレクトし、短編映画では自らピアノやオルガンで即興演奏をするなど、多様な経験を積みました。この経験が、後のアニメーション音楽制作に大きく貢献することになります。

1920年代初頭、スターリングはカンザスシティで活動していたウォルト・ディズニーと出会い、意気投合します。ディズニーがカリフォルニアに移った後も、1928年にミッキーマウスの初期作品『飛行機狂』と『ギャロッピン・ガウチョ』のトーキー化のための音楽制作を依頼され、ディズニー作品への関与が始まりました。なお、ミッキーマウスの最初のトーキー作品『蒸気船ウィリー』の音楽は、スターリングではなくウィルフレッド・ジャクソンが選曲したとされています。

ディズニー在籍中は、アニメーションと音楽の制作順序を巡る議論が、「シリー・シンフォニー」シリーズの誕生に繋がったという逸話も残っています。1929年に制作されたシリーズ第1作『骸骨の踊り』では、サン＝サーンスの『死の舞踏』を編曲した音楽を提供しました。

画期的な楽譜「バーシート」と音楽制作

スターリングがディズニー作品で映像と音楽を完璧に同期させることができたのは、ディズニーが導入した「バーシート」という楽譜によるところが大きいです。バーシートは作品全体を1秒1小節として小節を割り当てたもので、アニメーターや作曲家はこれに基づいて作業を進めることができました。スターリングはワーナーに移籍後も、このバーシートを用いた作曲を続けました。

また、スターリングはクリックトラックの発明者とも伝えられていますが、マックス・スタイナーやスコット・ブラッドリーを挙げる文献もあります。

ワーナー・ブラザースでの活躍と音楽的特徴

1930年にディズニーを退社したスターリングは、ヴァン・ビューレン・スタジオやアブ・アイワークスを経て、1936年にワーナー・ブラザースのアニメーションスタジオに入社します。1958年の引退まで、ルーニー・テューンズやメリー・メロディーズなどのシリーズで音楽監督を務めました。

スターリングの音楽は、大編成のスタジオオーケストラによって演奏され、ジャズとクラシックを融合した基本的な曲調に、童謡、民謡、流行歌など様々なジャンルの音楽が断片的に引用されるのが特徴です。特に、ワーナーが版権を所有する楽曲を自由に使用できたため、当時の最新ヒット曲が頻繁に引用されています。これは、ワーナー漫画、特に「メリー・メロディーズ」シリーズが、楽曲の販売促進という役割も担っていたことと関係しています。

さらに、曲のタイトルを場面と結びつける音楽的駄洒落もスターリング作品の特徴です。「赤いドレスの女」が赤い服の女性が登場する場面で流れたり、「フィンガルの洞窟」が洞窟の場面で流れたりするなど、露骨なまでにタイトルと場面を一致させる手法を用いています。しかし、この手法は現代の観客には理解しづらい部分もあります。

スターリングはレイモンド・スコットの作品を特に好んで引用しており、「発電所」という曲は機械的な動きを表す場面で頻繁に使われました。

ポストモダン音楽としての再評価

スターリングの作品は、「多様なジャンルの混淆」や「断片的引用の集積」といった特徴から、1990年代にポストモダン音楽として再評価されました。この再評価には、1990年に発売されたCD『The Carl Stalling Project: Music From Warner Bros. Cartoons, 1936−1958』が大きく貢献しています。

まとめ

カール・W・スターリングは、ディズニー初期作品からワーナー・ブラザースの黄金期まで、数々のアニメーション映画に個性豊かな音楽を提供した巨匠です。彼の音楽は、時代を超えて愛され続け、現代においてもポストモダン音楽として高い評価を得ています。その独特な音楽性は、アニメーション史に大きな足跡を残しました。

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